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「その秘書が忙しくて手が回らないんだろう。機密情報とかはないだろうけど、あれを持ってきてとか、ダンボールを運んでくれとか、そういう雑務が入ったりするから、それは業務にないとか断らずにしっかりやってほしい」
小波が忘れ物のカメラを持っていたことを思い出した。地下にあるセンターに届けるように言われたのも、今の雑務に入りそうだ。
「分かりました」
それなりに経営は順調でも、気をつけなければ足をすくわれる世の中だ。
お偉いさんの顔色はしっかり窺っておかなければマズいことになる。
泰成の手前、下手な態度は取れないので、言われたらちゃんとやろうと佐倉は肝に銘じた。
しかしこの雑務、というものは、想像していたよりもずっと大変だった。
「すみませんね、清掃の方にここまで手伝ってもらって。この時間、みんな帰っちゃうので頼める人がいないんですよ」
「いえ……大変ですね。何千枚も送るのに……」
肉体労働というには地味すぎる作業だが、佐倉は株主向けの手紙に一枚一枚切手を貼っていた。
「本当にすいません。社長のこだわりで、印刷したものだと気持ちが伝わらないとかで、毎回貼らないといけないんですよ。総務は手一杯なので、下っ端の僕が頼まれて、仕事の合間にやっていたんですけど、全然間に合わなくて。僕の要領が悪いのが問題なんですけど」
そう言って役員秘書の男性は苦笑いしていた。
定期的に株主に送る書類があるらしいのだが、社長のこだわりで苦行をさせられているそうで、下っ端で要領の悪い彼は、ギリギリまで放置して毎回小波さんに手伝ってもらっていたらしい。
「これで、最後の束です」
「わぁぁ、ありがとうございます。あの、あとは片付けておくので先に帰ってください」
「いえ、まだトイレ清掃が残っているので」
「ええっ!! 本当にすみません! ありがとうございます」
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