1 贖罪の日々

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 この世には男女の性とは別に、三つの性が存在する。  人口の七割を占めると言われているのが、β(ベータ)性。  残りの二割はα(アルファ)性。  一割にも満たないと言われているのが、Ω(オメガ)性。  アルファとオメガは特有のフェロモンを発することで知られている。  アルファは男女ともに容姿や才能に優れ、社会的に高い地位の仕事に就くことが多い。  かつてオメガは、周期的に発情期がやってきて、その度に催淫フェロモンを撒き散らしてアルファをラット(暴走状態)にしてしまうので、迷惑な存在として見られることがあった。  しかしそれは昔の話で、今は科学の発展とともに効果の高い抑制剤が次々と開発され、安価で手に入れることができるようになった。  抑制剤の開発によってオメガは周期をコントロールできるようになり、無自覚にフェロモンを撒き散らすようなことはなくなった。  そして、オメガの中にはフェロモンのコントロールができるようになった者も現れた。  コントロール可能のオメガは、自由にフェロモンを発することができる。  今やフェロモンは、その人自身の魅力であり、恋愛においての一つのアイテムのように捉えられている。  オメガを保護する法律も作られて、社会的にも守ろうという意識が根付いている。  発情期の休暇は自由に申請できるし、オメガを雇うと国から補助金も出るので、企業も積極的に採用している。  研究でもオメガは社会的にも優秀なアルファを産みやすいと言われていて、婚活市場では引く手数多である。  もちろんそれは完璧にオメガと認められた者のことで、佐倉には関係のない話であった。 「うん、数値は変わらずね。協力ありがとう」  馴染みの女性医師からお礼を言われた佐倉は、病院の診察室のベッドに寝ていた。  白い壁に囲まれたこの部屋をもう何回見ているか分からない。  天井のシミの数も覚えてしまった。  胸に当てた測定器を外されたので、佐倉は自分でシャツのボタンを留めた。  毎回同じ手順で同じ検査、採血の痛みももう感じないくらいになっていた。
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