第6-2話 進化の過程

1/1
前へ
/63ページ
次へ

第6-2話 進化の過程

3f902e7c-7c06-4bf4-bef2-ac480009129ebc5dce0e-3936-4b00-84f1-a3110600384baeff2ad8-5b17-4901-ba09-a462be245040  早苗に無言で、脱がされたララ……  いやいや、これって、そうなる流れ……だよネ? 「早苗さま、あ、あノ……!」  たしかに、認める……わたしは彼のことが……  でも突然すぎて、手足が震える。  体に合わせるように犬耳も揺れた。 「……わ、わたし、経験なくテ……!」  だから準備させてほしい、優しくしてほしい……  そこまでは言えず、ぶんぶん手を振る。  それでも返事がない。真剣なまなざしの彼が、目の前に立つ。 「……っ! お、お願い。な、なにか、言っテ……」  だが言われない。  彼は無言のまま、お腹を優しく、時に強く押して触ってくる。 「ひっ!!?」  次に、急に抱きしめられ、胸に顔を埋められた。 「!!!? さ、ささささ早苗さま!? う、嬉しいけど、そんな――」 「…………」  彼は手を伸ばし――ほっぺた、顎、首筋を触っている。  そのまま彼の手は伸び続け、腕、そして手首から指先に。 「……う、ぅ」  触れられたところに、官能的なしびれが走る。  その後、彼は、緊張で汗ばむ脇下に触れた。 781123bb-14be-4f44-a51a-752ad81742f8 「……あぁ、ッ!」  なんでそんなところを触って。  その手が、くびれ、腰――と、どんどんイケナイ方向にいって…… 「……あっ、ゥ」  すごくみだらなことをしている気分。  全身から汗が出て、体が火照るのを感じる。  だが早苗はそのころ―― (……皮膚炭疽の特徴のある皮膚病変は見られない)  口には出さず、そう思っていた。  だが、ララがそんなことを知る余地はない。  と、早苗が目を丸くする。 「……!」 「……え、ど、どうした……ノ?」  なにを見て……わ、わたしの汗?  胸部に顔を近づけては、くんくん汗のにおいをかいでいる。 「……は、わぁあああ! はずかしい、ヨ」  情欲的な声が漏れ、涙目にすらなるララ。  しばらく体をじっくり観察されたあと、ようやく解放される。  力なくベッドに倒れたララに、早苗がマントを下げて、ようやく声を出した。 「ララ。驚かないで聞いてくれ」 「……あ……うン」  恥ずかしさのあまり、布団を掴んで抱きしめた。  な、なにを言われるの、わたし…… 「君は人間だ」 「……エ?」  想像とはかけ離れたことを言われ、ララは言葉を失った。 ◇ 「……つ、つまり、わたしは、早苗さまと同じ? 亜人じゃないの……?」 「うん。今すぐ君が人間か、確かめたかった」  手を引かれ、ララは部屋の真ん中に座らされる。 「音の大きさが同じか教えて」  ララの周囲をゆっくりと歩いた。  手をパン、パンと周囲で叩く。 「音の大きさ、同ジ」 「これは何色?」  雑貨屋で買ってきた、カラフルな手ぬぐいだ。 「……赤と緑。その次は青だよ。次も青かナ」 「そうか。よかった……」  ほぼ人と同じ。違いは光に対する対応力が、少し低いぐらい。  最後に窓へ歩く。 「52メートル先に花屋がある。なんの花の匂いがする?」 「えっ! わたしの鼻、そこまではよくなイ……」  再度、安堵の息を漏らす早苗。 「なら君には()()()()()」 「……えッ?」 「君は人だ。たぶん、優れた聴力を持つ人間」  本当はDNAで判断したいし、内臓の位置も画像検査したいが…… 「仮説だけど、君の祖先は1000年以上、地下で生活をした。地上の音に気づきやすいように、耳の位置が上がった」 「ア……!」 「日光に触れないから、色素の薄い白い肌を持っている。夜目もきく。どうかな」 「……うん。獣人は、地下や洞窟で生活すル」  あってる、とララが小声で言う。 「地下への穴は、時独耳幅より狭くなる?」 「どうしてわかるノ?」 「君の耳の横幅が、肩幅とおなじぐらいだから」  つまり感覚器官だ。体温調整用ではない。 「あと体毛がなく、皮膚は柔らかい。理性があり、会話できる大脳がある」  つまり人だった。最後に、と続ける。 「君はかなり汗をかく。汗はヒトの、最強の体温調整機能だ」 「あ、だから、汗ヲ……」  思い出して、真っ赤な頬をララが毛布で隠した。 (……あと彼女の耳は、普通の人よりも敏感だ)  ケモミミは耳栓の役割もあるのだろう。  ララはどこか嬉しそうにしていた。 「えへへ……わ、わたし、が……早苗さまと同ジ……」 「今のがいいニュース」 「……え、うン」 「悪いニュースは、僕はたぶん、肺炭疽(はいたんそ)になった」  聞いたことのない不吉な単語に、ララが不安がる。 「はいたン……?」 「レアな感染症で、よりにもよってエボラより致死率が高い……」  はぁ、とため息を付く。  なんでこんな……いや、異世界だからか。 「肺炭疽の致死率は90~99%で、人から人――つまり、僕からララにはうつらない」 「え!? どうして、そんな病気ガ……」 「この辺りが、炭疽汚染地域だから。皮膚が黒くなり、痒がる人たち。多すぎる皮製品や羊毛などの製品……」  下水の出来事を思い出す。 「僕は肺から感染しているね。下水の動物の死骸をどかすときに、エアロゾル化した芽胞を長時間、吸入した」 「……っ!」  ララが泣きそうな顔をしている。ほぼ理解しているらしい。  「……早苗さまが死ぬ……いやダ……」 「重症化したら確実に死ぬ。その時は、諦め時だ」  泣いているララに早苗は続けた。 「でも」 「……うン」 「重症化する前に、ある薬を使えば大丈夫」  ララは袖で涙を拭いて、顔を上げた。 「……っ!! て、手伝う。なんていう薬?」 「抗生物質って言うんだ。20世紀最大の発明で、多くの人命を救った奇跡の薬」  1300年の時を超えて、この手で奇跡を生み出す。  それが生き残り、この世界すら根本的に変える唯一の道。 「残った時間は、どれぐらイ?」 「そうだね……」  早苗は肺炭疽の疫学から、日数を予測する。 「5日後に症状が出る。7日目に重症化。9日目に死ぬ」  ちなみに、ほぼ当たる。  サヴァン持ちの早苗は、昔から診断能力が不思議なほど優れていた。 (しかし、2週間あれば自信があるが、あと7日で抗生物質か……)  ララには言わないが、ほぼ無理だった。現実的じゃない。  一息ついて、早苗は不安そうな、でもやる気一杯のララを見る。  そして大事なことを言った。 「ララ。もう、服着ていいよ」 「……あっ!」  ララは頬を赤らめて、隠れて服を着だした。  重症化(死の確定)のタイムリミットまで、あと7日。 eb60b93e-8ddf-4b4e-9b0b-24db667da3da
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加