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プロローグ
ああ、また自分は夢を見ているのか。
漠然とそう理解して、何度目かわからない嘆息をひとつ。
何せここのところ、毎日同じような夢を見ているのだからため息のひとつくらい許されるというものだろう。
夢の内容は毎日変わらない。
誰かのすすり泣くような声が聞こえて、それだけ。ぼやけたような視界には部屋らしき場所の隅で膝を抱えている人影はあったが、それ以外はわからない。
声はかけられないし、気付いてももらえない。すすり泣いているであろう人影も何も言わないのだから泣いている理由もわからず、何一つ出来る事はない。
それなのに繰り返し、同じ夢を見る。
「(声を掛けられさえすれば、話を聞いてあげることくらいは出来るかもしれないのに)」
力になってあげられるとはいえない、だが悲しみは誰かと僅かでも分かち合えばほんの少しだとしても軽く出来ると思うのだ。
なんて、夢である以上は結局何も出来やしないのだけれど。
それでも歯痒さを感じてしまうのは、これが何度目かわからない夢であるからであり、目覚めと共に忘れてしまうからだ。
それなのに繰り返される。夢を見る度に思い出して、忘れてしまうから。
今宵もその刻限は訪れた。
ぼやけた視界が更にぼやけて景色が薄れ、光に包まれていく。心地よいような感覚のままに緩やかに意識が浮上するような。それと反比例するようにすすり泣きも遠くなり、
どうか、お目覚めください
そんな切々な声を最後に夢は終わり、決まってその全てを忘れてしまうのだ。
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