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第14章 岩並誉
「あっ、はぁっ。…みなてさん…」
「んっ、あぁっ、誉くん。…んっ、そこっ。…いい、のぉ…」
俺の上でゆさゆさと身体を上下させてる水底さんの綺麗な顔が、とろんと蕩けるように歪んだ。二人の身体の重なり合ってる部分が、彼女から溢れてくる熱い液で洪水みたいにびしょ濡れだ。
以前、教習を受けてたときみたいにお屋敷の地下の個室でなら遠慮は要らなかったけど。ここは彼女の生活する普通の部屋だし、普段睡眠を取るベッドの上なので。
これじゃ、下手に動くとシーツを汚しちゃうな。何となく懐かしさとノリと流れでお互いどちらともなく始めちゃったけど。
本当にここでしちゃってよかったのかな。と内心で気後れがないこともないし、少なくとも頭の端では理性が頑張って仕事しようとしてる。
だけど、次第に気持ちよさが勝って。もうそれどころじゃなく、ただ彼女のあそこのことで全身の感覚がいっぱいで。…何も、何一つ。…考えられなく、なる。
今頃は夜祭兄弟の手に既に落ちてるかもしれない、あの子のことも。
俺の上ではしたなく腰を回していた水底さんがいきなり感極まったようにがくん、と仰け反って叫んだ。
「あっあぁんっ、ほまれくん…っ」
「あ、ぁ。…みなて、さん。…いいよ…」
びくんびくん、と大きな美しい魚のように彼女が俺に跨ったまま跳ねた。
あ、…ぁ。と小さく呻いて俺の身体の上に崩れ落ち、ぴくぴく細かく痙攣してる彼女の滑らかな身体をしっかりと抱き寄せ、満ち足りた思いで頬に唇を押し付ける。
俺が教育対象年齢から外れて以来、この人とする機会はなくなってしまってたけど。久しぶりにすると、やっぱり村の女の誰よりも。この人のが一番いいな、と名残り惜しく余韻を愉しむ。
彼女がうっとりとした声で呟きながら、実に可愛らしく頭をすりすりと俺の頬に寄せてきた。
「誉くん。…とっても、よかったよ。やっぱり数年ぶりだけあって。すっかり大人の男の人の身体になったね」
俺の上で朦朧となりながら夢中で腰を遣ってたさっきの彼女の激しい反応を思い出し、その褒め言葉も相まって何とも誇らしい気持ちになる。
まあ、そうは言いつつも。…せっかく一人前の男になってから初、久々に水底さんに成長した自分の能力を実感してもらういい機会だったのに。
彼女を力尽くで上から組み伏せがしがしとこっちから押して貪っていくよりも、つい懐かしさから昔みたいに上に乗ってもらってそのテクニックで受け身に攻めてもらう方をとってしまった。…そしてやっぱりあえなく圧倒される。以前と変わらず、水底さんて。…いい…。
元教習生とインストラクター、っていう関係性を考えると相変わらず、その柔らかそうな唇にキスをするのは憚られる。セックスはともかく唇同士のキスは、彼女の方だって。したい相手を選ぶ権利があるだろう。
と考えて自主的に控え、頬を寄せるだけにとどめてしっかりと彼女を抱きしめた。…セックスって不思議だ。
ついさっき、思いきりあけすけに身体を直に擦り合わせて激しく悦びを分け合った。っていうだけの理由で、何故だか深い意味もなく愛おしさが込み上げてくるときがある。
よく考えてみたらこの人のこと、一個も何も知らないままなのにな。初めてしたあの頃から。
だからこんな気持ちは何かの錯覚なんだろうと思ってる。にしても、村じゅうの同年代の女の子のほとんどとは普段からしてるのに。大概の相手とは何しても、その直後ですら特に何の感慨も湧いて来ない。
おそらくシチュエーションのせいもあるんだろう。ちゃんと考察すれば何か法則性がありそうなものだけど、その辺りは不明だ。
水底さんが少し何か気がかりそうに俺の腕の中で居住まいを正した。
「…大丈夫?つい、部屋まで来てくれたから。懐かしさでこうやって誘っちゃったけど。なるべく早く向こうに戻ろうか?彼女、あんまり長いこと放っておけないでしょ」
「…ああ」
快楽の余韻と腕の中の水底さんへのうっとりとした愛おしさで気分よくなっていた俺の気持ちが、一瞬僅かに萎んだ。
何となく、裸の水底さんの肌の感触を愉しみながらあの子のことを考えるのは。微妙な罪悪感を覚えるような気が。…別に、この人とも追浜とも何の関係でもないんだけど、俺。
それでも何かを裏切ったような後ろめたさが完全には消えない。それを振り払おうと俺は努めて明るい声で受け応えた。
「別に、彼女じゃないです。追浜はただの友達だから。最初からそれは…。だって、どうせ。いつかはこの家に入ることになるだろうって。村に来たときから自動的に既に決まってる子じゃないですか」
そんな風には思ったことがなかったのに。その台詞を迷わず口にした瞬間、何故か胸の奥を鋭い針でちく、と突かれたような痛みを感じた。
「…うん」
水底さんはややもの思わしげに言葉を濁し、そこはかとなく慰めるような手つきで俺の頭をよしよし、と撫でた。
この感じだともしかして、彼女は俺と追浜が付き合ってるとでも考えてたのかな。ってことはまさか、あのお二人。…夜祭家のご当主さまたちも。同じように考えて俺のこと、疑ってた?
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