第14章 岩並誉

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俺が何かに気を取られていて上の空だ。ってことを、お互い肌と肌を直にぴったりくっつけ合ってるせいで敏感に感じ取れたのか。 言葉にしなくても俺の気持ちの揺らぎが何らかの形で伝わったらしく、水底さんは俺の腕の中に包み込まれたまま至極真面目な様子で深く頷いてみせた。 「そう。…だから身体さえめちゃくちゃによくしてあげればそれだけでOK、何でも言うことをきくとか百パーセント支配できるとかはあり得ない。心は快感では従えられないから…。少なくとも外の人は概ねそうだと思う。村の常識にとらわれない方がいいわ、彼女に関してはね」 「村の中でだってそうですよ。…身体と心は別、もちろん。…そういう風に考えたって。いいんだ…」 何だか新しい視点が開けたみたいな気分だった。 そう、身体は別々に隔てられて触れ合うことはできなくても。心同士は寄せられる、可能性がある。 あの子はこれからあの二人の手に落ちて、有無を言わさず身体に快楽を叩き込まれてそれなしじゃいられないほど虜にされる。将来俺とは結婚して一緒に住むこともできない。 けど、心はそれとは別なんだ。お互い他の相手と歓びを満喫して性欲を処理し、結婚して他の人との間に子を成していても。それはそれで好きだけはこっちに向けてもらえる、ことだってゼロじゃない。 だから。触れ合えないし彼女も自分も他の人とのプレイをそれぞれ愉しむ。ってことをどうこう考える必要はない。心さえ手にいれられればそれ以外は大した問題じゃない。…俺と追浜の間でなら。 それって、無意識のブレーキを外してあの子を好きだと思ってもいいってことだよね。彼女が他の男にめちゃくちゃにされて歓びで喘いでるところを想像しても大丈夫、そんなの心とは関係ないから。と考えないように抑えてきた箍を脳内で一気に外した。 そしたら俺の腕の中でぴったり身を寄せてる水底さんの感触にまたむらむらが湧き上がってきて。彼女の胸や股間を弄ってそのはしたない甘い声を愉しみながら、頭の中では二人にやられる追浜のことを思い浮かべて興奮に拍車をかけた。 だけど、俺は結局彼女が乱れる姿をこの目で実際に見ることはできなかった。 やっぱり夜祭家の中では俺と追浜は多少微妙な関係、と受け取られているのか。夜の祭事で彼女がお披露目されたと聞いたあとにも、俺は一向にそこに呼ばれる気配もなかった。 ちなみに祭事に参加するときは、自分で自由に行きたいときに行くわけじゃなくて夜祭家が采配して面子を毎回決め、それぞれに日時を指定する。 人数に偏りなく、満遍なくひと通り村じゅうの異性(基本。同性同士を希望する人は特例でそれ専用の祭事があるらしい。俺は行ったことがない)と必ず当たれるように考えてローテを組むとのことなのでいかにも大変そうだが。それが昔からの村の伝統なのだそうだ。 そういうわけで、毎回参加者をシャッフルして週に三、四回程度主催される夜の集まりだけど。俺が呼ばれた回では未だ彼女を目にすることはなかった。 話に聞くところによると追浜の披露が実施されるのはせいぜい月に一度くらいらしい。それ以上になると精神的な負荷に耐えられない、と判断されたのか。 月に一回じゃ村の人間なら誰でももの足りなくて悶えそうだけど、普通に。もしかしたら人前での披露はその間隔でも、村人に見えないところでは普段から二人に調教されまくってるのかもしれない。俺はあれ以来招ばれてないけど、追浜は毎週末夜祭家のお屋敷に招待されて顔を出す習慣になってるようだから。 今頃はすっかり身体もこなれて淫らな反応を…、って想像するとちょっとやばい。学校では以前の通りの清楚な様子だし。二人で会って漫画や小説の話をしてるときも変わらない、クールで理知的だけど親しみの持てる温かみある言動のままだ。だけど実際はあの身体も。…もう既に快楽を知ってしまったあと、なんだよな…。 「…そういえばさ。誉って実はあの子と仲いいらしいじゃん。お前、もう見た?器候補のあのお披露目ステージ」 夜の祭事の開始前。男どもは男だけの控え室で、女たちは女用の部屋でそれぞれ身支度をしている。 シャワーを浴びて身体の隅々まで清潔にしたり、服をロッカーにしまってそれぞれお浄めされたそれ専用の特別な薄物の服を纏ったりする手順があるけど。それを男女一緒にしておくと、準備の途中で既に盛ってやり出す連中がいないとも限らないからか。 そこでもぞもぞと身支度をしていると、同じクラスの男が俺のそばに寄ってきて話しかけてきた。そいつも当然幼馴染みだけど、特別に俺と仲いいわけじゃない。顔合わせたら話もするし、特に関係悪くもないまあ普通の知り合いって感じ。 そいつ(秋山翼ってやつ。特に重要な情報ではない)がちょっと声を落として、辺りを憚るように周囲に目をやってから俺に追浜の話題を振ってきた。なんかやけに声がわくわくと弾んでる。 「…俺さぁ。実は前回、当たったんだよ。器候補のお披露目会。…いやぁすごかったなぁ。ちょっとさ、今でも目に焼きついちゃってて。…帰ってから今まで何度あれで抜いたかって。お前、見た?もう」
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