第14章 岩並誉

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「それくらいは知ってるよ。新しい血を引いた子をなるべくたくさん村に増やさなきゃならないってことだろ」 そう受け流しつつ双子のご当主たちと妹の水底さんを脳裏に思い浮かべた。確かに、この代に限っては。三人兄妹はいかにも少ない。 村じゃ普通の家庭でも四、五人の子がいるのが通常だから平均より少ないくらいだ。まあ、子どもなんて授かりものだから。それしかできなかったのならどうしようもないんだけど。 俺の気のない相槌に、奴はますます意味ありげに声をひそめてみせた。 「そう、先代の奥様が産んだお子様の数が少ないから。俺らにはぴんと来ないだけで、本当は外から来た女は夜祭家の血統の子を産むだけでお役御免じゃないんだ。ある程度の人数ご当主の血を引く子を産んだら、そのあとはランダムに村の男たちの血を受けた子をなるべくたくさん産まなきゃならないって決まってる。…つまりさ」 秋山の声にわくわく、浮き浮きした響きがふと混じった。 「村の男なら誰でも。彼女に受胎させるチャンスがあるってことじゃん。…まあ、それが何年後になるか。十年くらいはご当主さまたちが独占して、充分やり尽くして飽きた頃に払い下げられるくらいかな。でも確実に、俺たちにも機会が巡ってくるわけだよ。…めっちゃ楽しみ、どうやるのかな。やっぱ祭事みたいに。みんなで集団で彼女を次々と交替で、とか?」 「…いや、それじゃ駄目だろ。結局誰の血を引く子か。わかんなくなっちゃうし」 一瞬奴の言うような場面を想像してしまい、さすがに眉をひそめて即否定する。追浜だってそんなの嫌だろ。もちろん十年後にどれだけ快楽に身体を馴らされてる状態になってるか、今からはまだ予想がつかないけど。 「生まれて来た子の父親がはっきりしないとあとあと近親婚を避けるのに困るし。ゆくゆくはその子も村の中の誰かと結婚するんだから、そこは曖昧にはできないよ。ちゃんと誰の子か明確にしとかないと。…だから、受胎可能な状態のときは。相手は一人限定じゃないか?」 その方が彼女も絶対いいだろ。…と思いながら、その場面に自分を当てはめて想像してみる。 …途端に。そうか、そうなったら。俺も一対一で真っ当に追浜とできるチャンスがあるんだな、とぱっと視界が開ける思いがした。 誰にも邪魔されずに二人きりで彼女を抱ける。 しっかり抱きしめてキスして、正々堂々とルールに則って。あの子の中に思う存分、自分の精を注ぎ込むことが可能なんだ…。 そして生まれてくる、俺と彼女の子ども。…と考えたら、何だか急激に幸せな気持ちになってきた。 その子は誰が育てることになるんだろう。夜祭家の籍に入るとすれば、彼女が引き取ってお屋敷で育てられることになるのか。 できたら俺が自分の手で育てられるといいんだけど。追浜そっくりの娘か息子。…きっと、めちゃくちゃ可愛いだろうな。頭もよくて利発な子に育つと思う。 「…そしたらさ。俺たちも夜祭家公認であの子にめちゃくちゃ孕ませられるってことだろ。しかもそのあと育てる責任もなくてやるだけでオッケー。最高じゃない?」 秋山の糞みたいな発言で我に返った。 そうか、俺だけじゃない。村じゅうの男に彼女を妊娠させる権利が生じるわけだ。…それ自体、ルールとしては理解できるけど。そいつのやけに嬉しそうな声に何故だかむかっとなる。 本来、好きな女の子が他の男とやるのが嫌とかいう感覚は俺にはない。多分村のほとんどの住人も皆同じだと思う。自分だって束縛されずに好きなだけ誰とでもやりたいし。 だけど、何でかその台詞には素直に承認しかねる感情が湧いて来た。…孕ませてやり捨て最高、みたいな女の子を人とも思ってない言いようが嫌だと思ったのか。単純に追浜が外の感覚を持つ子だからこんな風に言われるのは嫌がるに決まってる、ってわかってたからかもしれない。 こんなやつに彼女をやらせたくないし、こんな男の子どもを産んで欲しくもないな。だけど秋山に限らずこんな考え方の男は村にいっぱいいて、追浜は十年後には自分の身を守る術もなくこいつらにされるがままになるのかも。 できたらそんな未来は来てほしくない。何か違うやり方はないもんかな、と頭の中で思いを巡らし始めたところでその場で一番の年長者がそろそろ始まるぞ。と控え室内のみんなに声をかけて、ぞろぞろと移動が始まる。 俺はそのほぼ最後尾について、入り口で特別な水(避妊用)をピッチャーからコップに注いで飲み干しながら。まずはそもそもさっきの秋山の話が本当かどうか、今の段階では俺にはわからないから。何らかの方法で確かめるところから始めよう、と胸の内で決意を固めていた。 「ああ、その話。…うん、そうなの。本当のことだよ」 何とか連絡を取り、約束を取り付けて。時間を作ってもらって会った水底さんは、あっさりと秋山の言ったことを事実だと認めた。 俺はこの前、性の教習を一旦終えたら水底さんとやる機会はそうそう巡って来ないって説明したけど。 一応例外はあることはあって、何か特別にセックスで悩む事柄が生じたら夜祭家の人たちに個別で相談したいと申し出る。って方法はある。
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