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これだと俺の機能とか特殊性癖とかにどうやら何か問題があるらしい、って村で噂が立つ可能性はあるけど。背に腹は替えられない。
もしもいろいろ囁かれるようなら、あとで友達連中にちょっと不安に感じることがあったけど結局大したことじゃなかったよ。と説明しときゃいいや、と開き直った。
それより、水底さんならおそらくちゃんと俺の意を汲んでまともに話に取り合ってくれると思う。双子じゃ間違いなくそうはいかないだろう。
俺が二人と特に親しくないせいもあるけど、なんか上手く感情的な機微が通じないようなイメージをご当主さまたちに対しては抱いてる。偏見なのかもしれないが。
水底さんは俺のためにわざわざ忙しい中、きちんと時間を割いてくれた。多分若い子の教習一回分の枠を空けてくれたんだろう。この前俺たちがやったお屋敷の中のプライベートの自室じゃなく、神殿のある地下の並びの教習用の彼女の個室へと招かれた。
ふわふわの敷物が敷かれた居心地のいい懐かしいこの部屋で、俺は彼女と並んで座りながら生真面目な顔を作って水底さんに対し結婚後の追浜の成り行きについて尋ねる。彼女はあっさりとそれを追認した。
「そう、間違いない。器の女性の役割は村の中になるべく多くの自分の血を引く子どもを増やすことだから。…夜祭家にだけ新しい血を独占するようじゃ。多様性確保には程遠いでしょ?他の家でも村の外の血を何らかの方法で取り入れていかないと」
「噂だけじゃ。…なかったんだ…」
俺は少しがっかりして肩を落とした。
そしたら。秋山が涎を垂らしそうな顔で言ってた通り、ご当主さまたちがもう存分に彼女を貪って子どもを産ませ尽くしたあとは、追浜は村じゅうの男たちに自由にされる運命なのか。
子どもをたくさん産ませなきゃ、って名目で毎日のように次々といろんな男にやられる。…何でだろう、それは何となく嫌だな。村の他の女の子たちならともかく。追浜はすごく嫌がりそうだからか?
もしかしたら責任も取りそうもない、彼女を玩具としか考えてない連中の子どもを産まされる追浜が可哀想だって感じてるのかもしれない。
「一緒になって彼女のお腹から生命が誕生するのを喜んで、産んだあともその子がすくすく育つのを手助けしてそばで大切に見守るような相手の子ならともかく。やり捨て最高、なんて言うような男の子をお腹を痛めて産まされるのかと思うと。…そんなの、あの子が気の毒過ぎますよね。何とかならないもんかなぁ…」
これって、村の体制批判に相当するのかな。とちらと思わなくはなかった。
けどおそらく、水底さんならそこは大目に見てくれそうだって目算もあった。こういうことをうっかり口にしても目くじら立てずにちゃんと話の本筋だけを受け止めてくれる。そう信じられるのは、何となく昔から俺は彼女と馬が合うって実感があったせいなのかもしれない。
それと漠然とだけど。水底さんは追浜の立場についても理解がありそうというか。彼女に共感を抱くんじゃないか、って勘もあった。案の定水底さんは、俺の言いたいことはわかる。とでも言うように神妙な顔つきで深く頷いた。
「気持ちはわかる。…実際には生まれた赤ちゃんは、先方が特に希望しなければ基本的にうちで引き取るし。夜祭家の籍に入れられて何不自由なく育てられるはずだから、相手が責任取らないからって不幸になることもないけどね。でも、愛がある状態で幸せな家庭を作って欲しいと願うのは。それは当然よね。…好きな女の子のことなんだったら」
「それは。…」
どうでしょう、と曖昧に濁そうとしたけど思いとどまって口を閉じた。まあ、ここまで来たら多分そういうことなんだろうと思う。今さらむきになって否定してもしょうがない。
水底さんは俺をからかったりせず、もの思わしげな顔つきで同調するように言葉を続けた。
「器にさえ選ばれなければ。夜の乱交はともかく、普通に好きな男の子と結ばれてその人の子どもだけを産んで一緒に大切に育てて、普通に幸せになれるのに。…うちの母が体調を崩したのもよっぽどそれが嫌だったのかな。結果、夜祭の血を引く子を三人産んだだけで打ち止めにできたから。結局病んだ者勝ちかもね」
「え?身体を悪くしたからなんですか、水底さんたちのお母さんの産んだお子さんが少ない理由って」
「そうよ。…やっぱり、あんまり知らない子もいるのね。まああまり大っぴらに言いふらすようなことでもないし…」
やや重い表情で語尾を濁す。
その口振りでいうと出産を強要されたか村の慣習に結局馴染めなかったのが理由で、お母さんはストレスとかで健康を損ねたってことを言ってるのかな。と何となく察せられるものがあった。
それを知ってるから水底さんは追浜に対して不憫に思う気持ちがあるのかもしれない。同時に、もしかしてこの二人は俺が思ってたよりだいぶ仲いいのかな。と次の台詞から推察された。
「でも、同じようにそれを回避するために柚季ちゃんに病気になれとも言えないし。…本当にあの子が病んだりしたらつらいから。やっぱり出来るだけ、彼女が精神的に参らないように。わたしたちがそばに寄り添って支え続けるしかないのかな…」
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