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俺のことも、自分と一緒に追浜を支え続けられる存在として勘定に入れてくれるんだ。と思ったら何だかふわっと嬉しい気持ちが腹の奥からむくむくと湧いてきた。
性欲のために追浜を利用して産ませるだけ産ませてあとは知らない。みたいな男たちと俺は別だと認めてくれてる。…そう考えたら。
水底さんができるやり方とは別に、俺があの子に対して出来ることは何か。って少しでも真面目に考えてみようって気になってくる。
「水底さんがいてくれて彼女も心強いと思う。けど、俺は。何かあの子にしてあげられることなんか、あるのかな…」
力もない、立場もない。少なくとも多少成長して数年後に社会人になったとしても、夜祭家みたいな村で権力を持ってる人たちに意見をするようなポジションになれる見通しはまずないし。
跡継ぎを産んだあとは自由にしてあげて、好きな男と一緒に暮らしてそいつの子だけを産めばいいってルールにしてやってください。って頼んでも。そんなのお前が彼女を独占したいだけだろ、ってあっさり片付けられて終わりか。
でも、村に子どもを増やすって役割を果たさないわけじゃないし。そいつの血を引いた子だけだとしても、ちゃんとたくさん産んで元気に育ててれば。それで御の字ってことにしてはもらえないのかな…。
俺が俯いてぼそぼそとそんなことを呟いたら、それを小耳に挟んだらしき水底さんがぱっと顔を明るくしてぱちん、と両手を小さく打ち合わせた。
「それよ。…いいじゃない、村の慣習を逆手に取った方法。何も苦労してルールを変える必要もないでしょ。当たり前のように誉くんの子どもを産んでもらえばいいのよ。しかも、あなたのだけ」
「ええ?…でも。文句出ませんか、村の他の男連中から?」
想像するとちょっと怖い。けど、水底さんはきっぱりと自信たっぷりに断言した。
「そんなの、無言実行で問題ないでしょ。まず兄たちがもう夜祭の子どもは充分だからよその子を産んでいいよ。って言い始めたら即、誉くんが手を挙げるの。わたしと柚季ちゃん本人がすぐそれに同意すれば他の人が横入りする隙はできないでしょ。…それで水の効果で確実に妊娠できるから。同時に母体安静に、って理由でもう他の人とはさせないで済む」
確かに。『水』を使うんだから、無駄にたくさんの男の精を注がれる必要もないわけだ。間違いなく一発で身篭もれるんだから。
「それで誉くんは、無事に自分の子が生まれるのを見届けたいから。とか言って、柚季ちゃんを自分の家に住まわせて身の回りのお世話をすればいい。そして当然、赤ちゃんが生まれたあともそのまま一緒に住んで母子の面倒を見るの。いろいろと手が離せないから、とか言って。…それで、ある程度状況が落ち着いたら別居するより早く次の赤ちゃんを作る。それを繰り返していけば、どお?既成事実の成立、事実婚家庭の出来上がりよ」
「ははぁ。…なるほど」
俺はちょっと感心した。…確かに。
村にとっては確実に外の血を引いた子が少しでも多く、無事にすくすく育つことが最優先事項であって。
村の男たちがみんな追浜とやりたがってる、なんてことは体制維持にとってはどうでもいい枝葉の要素だし、母子の安全第一なのは事実だと思う。
だから、隙を見せず村の男第一号として彼女を無事受胎さえさせれば。あとは赤ちゃんを無事に産んでもらうため、健康に育てるため。母親の心身を大切に労わるためって大義名分さえあれば、俺だけの許で追浜と子どもを守っていけるかも。しかも、村に外の血を引く子を増やすってこと自体はそれならちゃんと成就させてるし。
水底さんはいかにもいいこと思いついた。って顔つきで、目を輝かせながらふわふわの敷物の上で身を乗り出して俺の方に顔を寄せてきた。
「…ていうか、もう事実婚状態に持ち込んで村のみんなに二人の関係を認めさせたら。あとは普通の夫婦と同じ扱いでいいじゃない?だって、そうじゃないと。…誉くん、他の女の人と一生全然できないのも可哀想だもんね。村に生まれてそれじゃ、我慢するの。難しいでしょ?」
…そうだった。
何となく話の流れで、二人きりの生活って展望に浮き浮きしてたけど。
実際には結婚ていっても、村での普通はお互いに外で乱交ありきなんだよな。俺もそれが当然って感覚で育ってきてるし。…でも追浜はその辺。やっぱり嫌だ、やめてほしい。って怒るのかな?
ちょっとぐらつきかける俺に、その空気を察した水底さんが慌てて横から言葉を添える。
「いや、今はもう柚季ちゃんも村のシステムがどうなってるかは知ってるし。その中で育った誉くんがそうしたいって言っても、ちゃんと理解はしてくれると思うよ。向こうに乱交無理強いさえしなければ…。けど、その頃にはもしかしたら柚季ちゃんも、すっかり村の文化に慣れてそういう身体になってる可能性も。なくはないよね?そしたら村の男の人たちも。孕ませはできなくても、柚季ちゃんと普通にセックスする機会さえあれば。満足して納得してくれそうだし」
そうか。…そうだよな。
俺はしどけなく寛げられた目の前の水底さんの露わな胸元に視線を向ける余裕さえ生まれて、目をそこに据えたまま素直に頷いた。
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