第13章 信田綺羅

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絶対に夜祭家の奥方になりたい!って強く思ってる様子でこそなかったが、逆に本気で嫌がるほどの我も薄くて、わざわざ行動を起こすくらいなら面倒だからもうそのまま流されちゃう。って感じに思えてたから。あえて人目を忍んで脱走したと知ったときは、さすがにすごく意外だった。 そこまで嫌だったとは、外から来た人間の価値観はほんとに理解できない。…だって、あんなに。 手を変え品を変え、二人に交替でぐっちゃぐちゃにやられながらも。陶然と瞼の裏に残る柚季のあのときの痴態を思い浮かべる。 あんな素敵にいやらしいもの、初めて見た。…屈辱と羞恥で顔を歪めてこそいたけど。 朦朧となりながら薄っすらした意識で夢中で腰を振っていた彼女のあの様子だと。すごく気持ちいいって感じてたのは間違いないと思うんだけどな。…それでも出て行くんだ。 思い出すだけで、また擦られてる中の奥の奥が思いきり絞られたみたいにきゅうっ、ときつく締まってくる。…この快楽よりも大事なものが外の世界には存在するだなんて。あたしには全然、からっきし思えないんだけどな…。 わたしの中に入ってた凪さんが喘いで、ぐっと覆い被さって全身でしがみついてきた。 「あっあっ、キラ。…締めすぎ。…もう…」 途端に中にぶわっ、と熱いものが溢れて外まで滲んで漏れてきたのを感じる。 わたしは自分もお腹の奥や身体の表面のあちこちをひくひくと痙攣させて浅い息をつきながら、どこか誇らしい思いでいっぱいだった。…やった。 今日も、大好きなご当主さまたちを。何度も、思うさまいかせることができた。 ここまで時間と手をかけて、綺羅を仕上げてやってよかった。と満足してくれたらいいな、とずっと日々頑張ってきた。…まあ、もちろん何よりまず自分自身が。この人たちとするのが誰とよりも一番好き、気持ちいい。っていうのが頑張る最たる理由ではあるけど。 そのためにも、綺羅が村の女の中で一番気持ちいい。こいつがいてよかった、と思ってほしい。インストラクター候補に自ら手を挙げて名乗り出たのもそのためだ。 幸い、今の夜祭家は完全なる人手不足。血筋的にいってわたしには何の資格もなくても、他の人よりセックスが三度のご飯より好きで得意で誰にも負けない、ってだけでもなれる可能性がある。 何代も前から生粋の水鳴発祥の家系なのは事実で、そこは運がなくて残念だけど。例外として夜祭家の人間じゃなくても性の指南役を任せてもらえるのなら、もしかしていつかは当主の奥方のポジションだって。可能性としては、ゼロじゃなくなってきたのかも…。 とにかく今回、柚季が村から逃げ出したことで。そこにぽっかり空席ができたことには違いない。 すっかり諦めていたところに降って湧いたチャンスだ。絶対に無駄にしないよう、慎重に。気合い入れていかなきゃ。 すっかり満足したように目を閉じて、忙しなく浅い呼吸を吐いて横たわっている二人。ほんとに美形だし、こんな風に乱れたままの姿もこの上なくセクシーでうっとりしちゃう。と思わず湧き上がってくる笑みをこぼし、わたしは凪さんと漣さんの間に裸のままの自分の身体を捩じ込んで、挟まった状態で両側に腕を回してしがみついた。 「何だ。…甘えたいのか。綺羅はちっちゃい頃からほんとに、変わらない甘えっ子だなぁ…」 「まあ。…そこがこの子の、可愛らしさというか。素直でいいところだよ。ね?…綺羅」 漣さんはちょっと憎まれ口を叩きながら、凪さんはそれを宥めつつ優しく。二人ともわたしの頭と背中を撫でてくれる。 まだときどきこの人たちにはわたしが、放課後にランドセルを玄関口の傍に隠して決死の表情でひとり訪問してきた幼い頃のままに思えるらしい。と感じ取り、なんか悔しいなぁ。といつもながらむくれてしまう。 妹か親戚の小さい子みたいに可愛がってくれるのは嬉しいんだけど。他の村の女の子たちと較べたら誰よりも距離は近いし、いつ気まぐれに訪ねても常に快く受け入れてくれる。そういう意味では不満はない。 でも、やっぱりお前なしじゃ物足りない、ずっとそばにいてほしいよ。ってこの人たちに心の底から思われたい。そのためにはいつまで経ってもちょっと図々しい遠慮のない親戚の子、みたいな位置づけじゃ。駄目なんだよなぁ…。 わたしは剥き出しの胸をすりすり、と二人に押しつけ、上目遣いに誘うようにしてねだってみた。 「ね、今夜。このままここに泊まっていいでしょ?家には連絡するから。遅くなっちゃったから、ご当主さまがここで休んでいって朝帰ればいいって言ってるからって。そう伝えてもいい?今からうちの親に」 「え?ここに泊まるのか。綺羅一人で?」 凪さん。…惚けちゃって。それとも、わざと? 「そんな。わたしだけここで眠るの寂しいよ。二人ともここで、一緒に寝よ?別にいいんでしょ。自分の部屋で寝ないと駄目な理由あるの?…ほんとはそれぞれ特別な恋人。お屋敷の奥に隠してる、とかさ」 茶化しつつさり気なく本命なんていないよね?と念を押す。
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