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 パーカーと別れてローゼン・コーヒーを出た後、打ちのめされたような気分でとぼとぼと歩いていた。  アスファルトの歩道の横ではひっきりなしに飛空自動車(フライング・ビークル)が離着陸を繰り返していた。車体の下部や後部にある噴射口からは水素燃料の推進剤が噴き出している。だが、水素燃料だけあってほぼ無臭だった。  それからはどこをどう歩いたか、覚えていなかった。だが、気づくと妻と息子が眠るデータセンターに辿り着いていた。  黒い箱、まるで墓標にも見える物理サーバーが自分の前で物言わずに(たたず)んでいる。  ――残された者のエゴではないか。  パーカーが放った言葉はまだ自分の心をぐりぐりと(えぐ)っていた。自分もかつてはそう考えていた。しかし、二人を失った悲しみでその考えを改め、この二年の間、幻想に(すが)って生きてきたのだ。  だが、果たしてそれは正しかったのだろうか。もし妻グレイスや息子フレッドが生きていたとしたら、デジタルコンストラクトに話しかける自分を見て喜んだのだろうか。
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