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今の時代、金持ちは何から何までバックアップを取ることが当たり前になっていた。万が一病気になったり、酒の飲み過ぎで肝硬変にでもなったりすれば、医者にかかるのではなく、豚や牛を使って培養しておいた専用の人工培養臓器と取り換える。視力が落ちれば、最新式の光学式義眼を入れ直す。そんな具合だ。
だが、それは金持ちに限った話だった。自分のようなしがないサラリーマンにはそこまでの金はない。せいぜい生体マイクロチップを埋め込んで電脳化し、型落ちの光学式義眼を入れるのが関の山だ。高価な人工培養臓器や換装義体などにはとても手が届かない。
短くなっていく煙草を片手にこれからどうしようか考えた。
また二人に会いたい、ふとそんな想いが湧いた。二年前に飛空自動車の墜落事故で亡くなった妻グレイスと九歳だった息子フレッド。あの二人なら、会えばきっと、また自分を励ましてくれる。
ふっと息を吐いて、飛空自動車タクシーを呼んだ。
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