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気づいた時には俺は神殿にいた。きらびやかな衣装を纏った人々が目の前に跪いている。何でも、異世界では『揺れ』と呼ばれる大きな地震があると、他の世界から人々が現れることがあるらしい。他の世界からやってきた者たちは『客人』と呼ばれ、世界に恩恵を与えることが多いという。
俺が訪れた国では、何日も続く揺れを収めようと、国王も神官たちも揃って偉大なる女神に祈りを捧げていた。そこへ、きらきらと輝く光と共に俺が現れたのだ。
『客人』が現れたと同時に揺れは収まり、彼らの間には歓呼の声が響き渡った。だが、それはすぐに困惑に変わる。
彼らには俺が見え、声も聞こえる。俺にも彼らの言葉が理解できた。それでも、どうしようもないことがあった。そう、俺には実体がなかった。まるで幽霊のように、ふわふわと彼らの間に漂う存在だったのだ。
「本体がこっちにあったんじゃあ、そりゃあ向こうでは中身っていうか、魂しかないわけだよなあ」
俺はしみじみ呟いた。向こうでは、魂だけだったせいか、姿形も変わらなかった。
「お前は一体、何を言ってんだよ。また、あれか? 異世界に行って暮らしてたって話か?」
「おー、それそれ。全く信じてないのに聞いてくれんの、ほんと優しいよな?」
俺が事故で入院していた間に、受かっていた教師への道は閉ざされた。悲しいかな、今はただの無職である。その間に、この幼馴染は優秀な頭脳を活かして第一志望の会社に就職し、新入社員の星となっていたらしい。全く羨ましい限りだ。
「お前さあ、今、忙しいんじゃないの? うちに来てて大丈夫なの?」
「俺の会社は残業なしのクリーンな企業だからな。何の問題もないわ」
にこりと爽やかな笑みを浮かべるこの男に惚れるやつは後を絶たない。身長は高いし、スポーツだって出来る。神がいくつもの祝福を与えたような男だ。
『……神がいくつもの祝福を与えた男』
その言葉を、向こうでも何度も聞いた気がする。ふっと浮かんだ面影に胸の奥がズキンと痛む。
眉を顰めていると、和也が俺の額に手を当てる。
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