第0話 青石課長は、既に、溺愛しているの巻。

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第0話 青石課長は、既に、溺愛しているの巻。

「おまえ。このこと言ったらただじゃおかねえからな」  ……はい。睨みつけるこの、やたらと美しい……そして会社では鉄壁の課長、能面づら、24時間1mmも笑わない男はどこに消えたのでしょう?  混乱する。あんなに溺愛や感情表現とは無縁の。……みんなからリスペクトされている青石(あおいし)課長が……。  あんなふうになるなんて。 「言ったらどうなるかてめ。覚えておけ」  ビルとビルの間の壁に縫いつけられるように壁ドンされ、そして、わたしを解放し、ポケットから煙草を取り出して吸い出す……このひとはいったい、誰なんですかぁ。こんな課長、知らないよ!! 「言ったらどうなるんですか」  敢えて。挑発してやる。挑戦的にわたしは課長を睨みつけた。 「あ?」と煙草を吸う手を止めた彼が言う。わたしはその手元が、白く、筋張っていて綺麗だな、と思いながらも、 「みんな青石課長の裏の顔がこんなんだ……って知ったらきっと……びっくりしますよ。……ま」  とわたしは視線を落とし、 「それを言ったところで別に……得することなんてわたし、ありませんけど――」  顎をくいっと掴まれていた。キス――。されるかと思った。流行って久しい壁ドンをお披露目した青石課長は、ほんのり、あまくて苦い、煙草の香りがする。
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