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「あの〜、私、初めてなんだけど、人狼ってどんなゲーム?」
佐藤さんが言う。
「えっ、知らないの? まさか沢田や藤川も?」
椎名くんの問いに沢田くんは小さく頷く。
私も初めてだけど、アイドルの動画配信チャンネルとかで見てルールくらいは知っている。
たしか、平和な町に人の姿をした狼(人狼)が現れて、夜になると市民を殺してしまうので、市民は誰が人狼なのかを昼間のうちに見破って追放しなくてはならない──つまり、嘘をついて市民になりすましている人狼は誰なのかを当てるゲームだったはずだ。
「みんな流行に乗り遅れているなあ。今、めちゃめちゃ流行ってるのに」
椎名くんがニヤニヤ笑う。
「いや、むしろ流行は落ち着いた頃だと思うけど」
「えっ。そうなの? 俺、昨日初めてゲームの存在を知ったんだけど」
お前が一番乗り遅れてんじゃねーか。
「なるほど。椎名くんは、昨日初めて存在を知ったゲームをやってみたくてたまらないんだね」
佐藤さんは人の気持ちがよく分かる人だ。いつも穏やかで優しい。
「じゃあ、人狼やろっか。せっかくだから」
「あ、うん」
沢田くんは流されるままに頷く。その時だった。
「ちょっと待った! 楽しそうだな、お前ら! 俺も混ぜろよ!」
どこからか声がしたと思ったら、そばの木陰から金髪のヤンキーが現れた。
「小野田くん⁉︎」
それは、自分こそが沢田くんの大親友だと思い込んでいる変な人、小野田くんだった。椎名くんは小野田くんに目をつけられていて、沢田くんのことについて話があると呼び出しをくらったんだけど、無視して逃げたという苦い過去がある。
「いいよな⁉︎」
小野田くん、顔が怖いなあ。あまりの恐怖に誰も嫌だとは言い出せない。
「あいつ、人狼じゃね?」
椎名くんがボソッとつぶやいた。
まだゲーム始まってないのにな。
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