いいところ見せたいから

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いいところ見せたいから

「そんな顔させたくない」  そう言って私の顔を両手で優しく包む。  そんな顔? 私の? 「気にして欲しい」 「…本当は、気に、なる…」 「うん」  ふっ、とカイさんが微笑む。スルスルと頬を撫で唇をなぞる。恥ずかしいような嬉しいような、むず痒さに耐えられなくてカイさんの胸に縋り付くと、柔らかく身体を抱き締めてくれる。大きな掌が優しく背中を撫で、頭を撫でる。その心地よさ。  ああ、好きだな。  カイさんが好き。  久し振りに会えて甘えモードなんだろうか。胸に額を擦り付けて深く香りを吸い込む。 「…私、まだまだ子供で」 「うん?」 「……白波瀬さんみたいな大人になりたい…」 「…ももが白波瀬みたいだったら好きにならない」 「ええ?」 「ももだから好きなんだよ」  カイさんはふう、とため息をついて私の頭頂部にキスを落とした。   「ずっとももだけを見てきた。いつだってももはももらしくいていいんだよ。子供だなんて思ってないし、変わってほしいなんて思ってない」 「…そっか」 「そうだ。…それから」 「え?」 「いい加減、敬語はやめてほしい」 「あ…」  そう言えば以前から時々言われてた。距離を感じるからやめてほしいって。 「ごめんなさい、慣れてなくて…」 「ほらまた」 「あ」  難しい!だって何年も敬語だったから…! 「じゃあ、敬語が出る度にお仕置きかな」 「え!? お仕置きって…」 「嫌なら直せばいい」 「か、簡単に言わないで…!」  赤くなってそう言うと、カイさんは声を出して笑う。 「ほら、食べよう。ももの好きなワインも用意したから」  カイさんが私の腰に手を回してテーブルへ促す。 「すっかり冷めちゃったな。温め直すから待ってて」 「あ、私も手伝いま…手伝う」 「今のアウトだろ」 「ううん、ギリセーフ」 「判定甘いな!」 「初日くらいいいでしょ」  テーブルに置かれたグレーの(ストウブ)を持ち上げてキッチンに移動するカイさんにくっついて、広いキッチンに二人で並ぶ。 「次は私が作るね」 「いいね、楽しみだ」 「カイさんほどプロっぽくないよ?」 「俺のは趣味だから。ももに作ってあげたくて見栄張ってるだけ」 「ええ? 何それ」  クスクスと笑うと、カイさんはム、と口を尖らせた。 「少しはいいところ見せたいから」  何それかわいい。  カイさんも不安だったのかな? 会えない期間があって、離れてて不安だった? 「…カイさんはいいところしかないです…」 「敬語」 「え、今の…んうっ」
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