絡める指

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絡める指

「兄さん」  洋海さんの声にカイさんがこちらを見た。  バッチリ目が合い、思わず視線を逸らしてしまった。  いやだって、待って待って待って! 久し振り過ぎてどんな顔で会ったらいいの!? いや、夜に会うんだけど! ちょっと気合い入れた格好を朝から見られるのも恥ずかしいんですけど! 「この子、今インターンでうちに来てる佐藤ももちゃん」  洋海さんはニヤニヤ笑いながらそう言うと、私の背中をそっと押した。  前に押し出された私はそこにいた人たち全員の視線を受けて、パッと頭を下げて挨拶をする。 「佐藤ももです。よろしくお願いします」  視界に自分の靴が映る。心臓がドキドキして、顔を上げるタイミングが分からないほど動揺してる。 「ああ、君が洋海さんが気に入ってるデザイナーの卵か!」  その場にいた若い男性が気さくに話しかけて来た。 「そうなんですよ、中々いいセンスなんですよね」 「私もそのデザイン見たわ。面白いわよね」  みんな和気あいあいと私の話をし始めて、恥ずかしくてじっとしているとカイさんがずっと私を見ていることに気が付いた。  その視線にまた顔が熱くなる。でも、さっき思いっきり目を逸らしてしまったからそれじゃいけないと、今度は頑張ってカイさんを見返すと、カイさんはちょっと目を見張った後、顔を逸らして口許を覆った。  ねえ、なんか肩が震えてるんですけど。  笑ってる!? え、何がおかしいの!? 「あ、そうだももちゃん、これ持ってちょっと兄さんと先に行っててくれる?」  洋海さんがそう言うと私の手にタブレットを渡した。 「ほら、以前の企画書とデザイン案を兄さんに見てもらうんだけど、ファイルいっぱいあるから。ももちゃんどれか分かるでしょ」 「え、あの」 「僕も珈琲買ってすぐ行くから、ね」  タイミング良く開いたエレベーターに洋海さんに押し込まれ、他の人たちも乗り込んでくる。  振り返ると、閉まる扉の向こうで洋海さんが笑顔で手を振っていた。  エレベーターの奥に追いやられピッタリとカイさんにくっ付いた状態で並ぶとすぐ、カイさんの手が私の手を取った。  長い指が私の指を絡めとる。  指の先まで熱くなった気がして恥ずかしくて、でも久々に触れるカイさんの熱に嬉しさが込み上げる。恥ずかしくて顔を見ることができないまま、その指に、掌の熱に、神経が集中する。カイさんの長い指が、すり、と私の手の甲を撫でた。私もその動きに答えるようにカイさんの指をついっと撫でた。  カイさんの後ろで絡め繋いだ手は汗ばんでいる。それは、どちらの汗なんだろう。
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