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可愛い仔犬
「今日はうちに来て」
その言葉にあっという間に顔が熱くなった。
ねえ、私が恥ずかしがるって分かってて言ってるのかな? 何その破棄力!
笑いを含む声で頭やこめかみに沢山キスをしながら、カイさんが私の背中を大きく撫でる。恥ずかしくて顔を上げられなくて、何度もカイさんの腕の中で頷いた。
「もーも? 返事は?」
「は、はい!」
「よし、じゃあコレ。持ってて」
カイさんは身体を離すと内ポケットからカードキーを取り出した。自宅の鍵がカードキーって、なんかそれだけで凄そう…。
「俺はちょっと遅くなるかもしれないから、先に行ってて欲しい。住所は後で送るから」
「わ、分かりました…」
カイさんの家、初めて行く…。
てっきり時々連れて行ってくれるホテルで食事をするんだと思ってた。え、お泊まりセットとか…いる…??
「…ご、ご飯はどうしますか」
「俺が作る。これでも得意なんだよ」
「え、そうなの?」
「そう。楽しみにして」
ふっ、と口許に笑みを浮かべてカイさんは私の顎に指をかけ、親指で唇をなぞった。
「やっとこっち見た」
ちゅ、と音を立てて唇にキス。
「だ、だだだって…っ」
「俺は会えてこんなに嬉しいのに、顔を見せてくれないなんて」
「み、見せましたよ! さっき下で…」
「…っ、ぶふっ」
何かを思い出したのか、カイさんが吹き出した。
「…さっきも笑ってたけど、何がおかしいんですか?」
「いやだって…真っ赤な顔して目を潤ませてふるふる震えてるからさ…、正月にテレビで見た仔犬思い出したんだよ…」
「…ちなみに犬種は」
「セントバーナード」
「なんか酷くないですか!?」
「いやすごく可愛い」
嘘だ!! いや仔犬は可愛いけど! そこは嘘でもチワワとかさ、あるじゃない!? なんで大型犬!?
身体を揺らして笑うカイさんの腕から逃れようとジタバタする私を、カイさんは笑いながら「ごめん」と宥め、抱き締めて離さない。
…うん、まだくっついていたい。
でもそこに、コンコン、と扉をノックする音が響いた。洋海さんが来たのかな。
「今開ける、ちょっと待て」
カイさんはそう言うと、私の頭を撫でてちゅ、と頬にキスをして身体を離した。見上げると優しく甘い笑顔で私を見下ろすカイさん。
名残惜しいのは私だけじゃないと言われている気がして、胸がくすぐったくなる。
カイさんから離れてサッと服や髪を整える。…乱れてないかしら。
「カイ! あけましておめでとう!」
カイさんが扉を開けるとすぐに響いた明るい女性の声。
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