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釣り合いたい
「白波瀬」
「何よ、戻ったんなら連絡くれたらいいのに…って、アラ? インターンのももちゃん」
「おはようございます」
「おはよう! やらしいわね、何若い子連れ込んでるのよ」
「人聞きの悪いことを言うな。洋海が席を外してるだけだ」
「え〜? ももちゃん、変なことされてない?」
「いっ、いいえ、ナニも…」
白波瀬さんは広報部門のチーフで、私がインターンを開始した時に座学でお世話になった、背が高くとびきり美人の明るい女性。カイさんと同期のバツイチで、一時はモデルも務めていたと洋海さんが言っていた。
サラサラのストレートヘアを片側に流してベージュのセットアップをスタイル良く着こなす白波瀬さんは、にっこりと笑うと私の肩を叩いた。
「何かあったらちゃんと言うのよ」
「おい白波瀬、いい加減にしろ」
二人の間に流れる長年の信頼関係。踏み込んではいけない気がして黙っていると、カイさんが私に自分が持って来た珈琲を差し出してきた。
「佐藤さん、インターンの期間は今月いっぱいだったね」
「は、はい」
「うちの会社、好きになってくれるといいんだけど」
私の手に珈琲を握らせ、白波瀬さんには見えないようにすっと指で手の甲をなぞられる。
「無理しないように」
そう言ってふんわり笑うカイさんの笑顔に、図らずもときめいてしまう。慌てて目を逸らして頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
「出た、カイの人たらし」
「何だそれ」
カイさんは怪訝な顔でニヤニヤ笑う白波瀬さんを睨む。
「お待たせ〜、アレ? 白波瀬さん」
「洋海、あけおめ」
「何してるの?」
「広報として、将来我が社を背負って立つ佐藤常務に新年のご挨拶」
珈琲を両手に開けっぱなしの部屋へ入室してきた洋海さんの手から、白波瀬さんはサッと珈琲を受け取る。「あっ」という洋海さんに笑顔でお礼を言う白波瀬さん。
「あの、それじゃあ私はこれで…」
「あ、ももちゃん、ありがとう」
「いえ! 失礼しました」
頭を下げて部屋を出る時、視界の隅に捉えたカイさんは、じっと私を見ているようだった。
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