初めてのオプション

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 理想に近付くために努力し、お金をかけて、新たな理想が出現し、それを繰り返す。  人は現実を受け止めるということを理解しない限り、一生理想には追い付けない。  現実を受け入れれば、こんなに世界は明るく美しいのに、何故それをしないのだろうか。  冬の澄み切った空を眺め、私はまた新たな一日を歩き始めた。  私の日常は忙しい。32歳で課長という地位を手に入れた者にはそれなりの代償が支払われる。  プライベートの時間なんてほとんどない。毎日朝から夜まで働き詰め。  課の成績はもろに自分の給料に反映されるのだから仕方ない。  できない部下を叱るより、自分でやった方が早いし、やる気のない部下を奮起させるより、フォローに回った方が上手く稼働する。  休日なんてあってないようなものだ。だから恋なんてしている暇はない。  推し活すら邪魔でしかない。誰かのスケジュールに自分が左右されるなんて、もってのほか。  この世で一番大事なお金という宝を手に入れるため私は日々身を粉にして働く。  だが、数ヶ月に1度だけ自分にご褒美を与えることにしている。  金曜日の夕方、マッハの速度で仕事を終え、終業時間の17時30分に会社を出る。
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