最後の異世界転生

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 ***  ラノベだったら、転生したら勇者の剣でしたーとか、魔王の部下でしたーとか、スライムでしたーなんてのが関の山だろう。夢と希望と魔法に溢れた異世界で、ちょっと特殊なカラダや立場だけどなんかチートスキルっぽいものに恵まれて幸せに過ごすとか。そういう物語が俺たちの国では流行っていたはずだ。まあ、ちゃんと読んだこともないんだが。  俺の転生して最初の人生はなんと一本の煙草だった。 「うっそだろおおおおお!?」  この状態で、なまじ前世の記憶があるのがサイアク極まりない。なんせ、俺は前世で散々煙草を吸ってたからだ。煙草一本の命がどれほど儚いかなんて、嫌というほど理解しているのである。  しかも。 「嫌だ嫌だ嫌だ!なんで俺が煙草なんだよ!」 「なんだよお前さん、おかしなやつだな。煙草に生まれたのがそんなに嫌か?」  煙草としての人生を全力で拒否ってるのは、人間としての記憶を保持している俺だけときた。俺と一緒の箱に入れられた奴らは、絶望しまくっている俺に心底不思議そうに言うのである。 「煙草は買って吸ってもらって、人間に幸せな気持ちになってもらうのが本懐だろ?その喜びを理解できないなんて、お前さんは可哀想なやつだなぁ」 「嫌だっつの!火をつけられたらあちーし、オッサンとかに咥えられるのもサイテーだし、最後は足か指でグリグリ潰されて人生を終えるんたぞ!どんだけ痛くて苦しいと思ってるんだよ!!」 「はははは、人生じゃなくて煙草生だろう?お前さんは面白いな、まるで人間みたいなことを言う」 「俺は人間なんだってば!!」  狭くて真っ暗な自販機の中、いくら叫んだところで意味はない。周りの煙草たちに俺の未来を変える方法があるはずもなく、何より彼らは自分達の運命を当然のように受け入れている。この場所で、異端なのは間違いなく俺の方だった。 ――頼む頼む頼む頼む!せめて、キレイなねーちゃんに買われたいっ!!  俺のそんな願望も虚しく、俺を購入したのはけむくじゃらの熊のようなおっさんだった。煙草を吸う女性もいるにはいるが、やっぱりおっさん人口の方が多い。自販機の、さらに後ろに並んでいたのもみんなおじさん軍団だった。 「ぐおおおおおお!」  俺は、おっさんの煙草臭い口元に咥えられ。 「いぎいいいいいいいいいい、あづいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!」  お尻に火をつけられて身悶えし。  最後はぽいっとコンクリートの上に捨てられて、足でぐりぐりと潰されて人生を終えたのだった。  灰皿の中も臭くて最悪だっただろうがそれでもこれだけは言わせてくれ。煙草のポイ捨て駄目絶対!お前みたいなのがいるから、俺らスモーカーのイメージが余計下がるんだよ。おい聞いてるのかおっさん!?
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