最後の異世界転生

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 ***  二度目の人生は何になるのか。タバコより酷い人生はないだろう、と思っていたらまさかの。 「ありがとうございましたー!」 「ナンデ!?」  俺は気付いた時、スーパーのビニール袋になっていた。でもってタバコの時同様、その中の一枚ってなわけである。  スーパーのレジで、おばさんやお姉さん、時々お兄さんが現れては次々接客していく。俺もまた、仲間が一枚、また一枚と客に貰われていくのを黙って見ているしかできないのだった。  今の時代、スーパーの袋が基本有料になって久しい。が、袋が欲しいですと言ってくる人は案外多いようだった。まあ、破れなければ使いまわしができて便利だからってのもあるだろう。高い買い物かごを買うよりは、一回2円から5円程度のビニール袋を使いまわしたほうがいいと考えるのもわからないではない。ようはビニール袋が悪なのではなくて、そいつを不法投棄するやつが悪なのだから、きちんと使って正しく捨てればなんの問題もないのだ。  一見すると、タバコの人生よりはましなようにも思えるが。 「ううう、何で俺、またしても無機物なんだ。ビニール袋なんてろくな未来しか見えねえよ……」 「なんだよなんだよ、お前そんなにビニール袋に生まれたことが嫌なのかよ!」 「ビニール袋はいいぞぉ!」 「超いいぞぉ!」 「特にここ、マルコシマートのロゴは黒くてでっかくてピカピカしてて最高にイカすじゃねえか!」 「しかも俺らはそこらへんのビニール袋より強くて硬くて丈夫だしな!」 「たくさん荷物を運んで人間様を助けるんだ、最高の仕事だぜ!?」 「……お前らちょっと黙っててくれます?」  相変わらず、他のビニール袋の連中は暢気である。自分の生まれを悲観する様子が全くない。そりゃネガティブなことばっかり言われ続けるのもしんどいものだが、この苦しみを誰とも分かち合えないのはなんとも寂しいものである。  俺はあることを恐れていた。若い頃よく見ていた子供のおつかいバラエティを思い出す。どうか、子供を連れた母親とかに買われませんように! 「ありがとうございましたー」 「だからなんで!?なんでこうなんのおおおお!?」  俺が願うと逆のことになる、そんな法則でもあるのか。俺を食材と一緒に買っていったのは、未就学児の男の子を連れた母親である。母親は、さらに背中に赤ちゃんをおんぶしていて大変そうだった。すると、男の子が傍迷惑にも提案してくれるのである。 「ママァ!ぼく、荷物持つよ!お兄ちゃんだから!」 「本当に?助かるわぁ」  いや、助かるわぁじゃねえよ!と俺は突っ込みたい。確かに、兄が荷物を持ってくれる様は微笑ましいだろうが、子供に砂糖の袋なんか持たせては絶対にだめなのだ!  案の定、俺は重たい砂糖の袋を入れられて体が伸びてしまい、非常に苦しむ羽目に。そしてその俺=ビニール袋を持たされたお兄ちゃんは、段々持ち上げるのが辛くなり、次第に引きずり始めたのだった。 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」  ズリズリズリズリズリズリズリズリズリズリズリズリー!と思い切り引きずられ、おしりが削れていく俺。痛い。めっちゃ痛い!そして案の定、俺のお尻は思い切り破れてしまったのだった。ずるり、と大きく開いた穴から落下する砂糖の袋。 「いやあああああああああああああああああああああああ俺のケツがあああああああああああああああああっ!!」 「ちょっとまーくん、何やってるの!?ちゃんと持たないと駄目じゃない!!」  母親がお兄ちゃんを叱り、泣き出すお兄ちゃん。  いや、こんな小さな子に重たい砂糖の袋持たせたあんたが悪いだろ――俺は遠ざかる意識の中で、そんなことを思ったのだった。
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