最後の異世界転生

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 ***  それからも俺は人生を繰り返した。  ある時はファミレスの机になり、ある時は居酒屋のトイレになり、ある時は道端の石ころになり、ある時はそのへんのミミズとなってコンクリートで干からびて死んだ。殆ど無機物なのはどういうことだと心の底から思う。これが俺に与えられた罰だというのか。確かに犯罪は山ほど犯したが、殺人とレイプだけはやってないのにこれはちょっと行き過ぎてはいないだろうか。  それとも、俺がやった細々とした犯罪は、殺人やレイプに該当するほどの恐ろしい結果を招いていたのだろうか。誰かの人生を狂わせ、何人もを破滅に追い込んでいたということなのか? ――もう、疲れた。 『良いか。そなたの最後の人生は……そなたが罪を償ったどうかで決まる。それまでは幾多もの苦悩に満ちた死を覚悟せよ』  閻魔様の言葉が蘇る。確かに、あの言葉からして平凡で幸せな人間に転生できるなんて期待はしていなかったが。せめて、生き物にしてもらってもいいのではなかろうか。唯一転生した生き物が、土の中からスタートした直後に灼熱のコンクリートで干からびる定めだったミミズだけなんてあまりにも悲しすぎるのだが。 ――償うって、何をすりゃいいんだ。  俺は考える、考える、考える。 ――どうしたら償ったことになるんだ。わかんねえよ、閻魔様。  そもそも、誰かのために生きようなんて思ったこともない。そして誰かにまともに感謝された記憶もない人生だった。無意味な命だったなんて思わないが、満足の行く命の使い方ができていたかというとそれも怪しい。ただ、流れ着いたその場その場で生きていくだけで必死だった。それこそ、誰かを足蹴にしてでも。 ――そんや生き方が駄目だったのか?でもよ、じゃあ今の俺に何ができるってんだ。自分で動くこともできねえ無機物にばっかしやがって。  考える、考える、考えるったら考える――皿の上で。  そう、今度の俺はドッグフードだった。今まさに、茶色の柴犬の前にザラザラーと開けられてしまったカリカリフードである。相変わらず自分の意志では動けないし、そこでお座りしている柴犬に食われたらそこで人生終了である。一体何をどうしろというのか。  何十回と異世界転生したが、毎回人生()が短すぎるのである。生きるために足掻く暇さえない。この状況から、一体俺に何を期待してるってんだろうか? 「……?」  そこでようやく、俺は違和感に気づいた。飼い主の女の子がドッグフード=俺を用意したのに、柴犬は一向に手を付けないのだ。待て、と言われているわけではない。それなのに、お座りをしたまままったく動く気配がないのである。 「……ままぁ」  女の子はため息をついて、空になったドッグフードの袋を持って奥の部屋に行ってしまった。 「マルがご飯食べないよー!どうすればいいのー?」
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