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安心感を得たかったわけでもないが――実際はそうだったのかも知れない――僕は隣で眠りこけていた舞游を揺すり起こした。彼女は寝惚け眼をこすり、見当違いの方向を見て「いまどこらへん?」なんて尋ねてくる。その頭を軽く掴んで正面に向けさせるとさすがに意識が覚醒したのか「おお」と感嘆の声をあげた。
「着いたね。車をガレージに入れるから、もう少し車内にいてくれ」
「雪が酷くなる前に到着できて良かったわ」
霧余さんの言葉はもっともだったが、しかし僕はまだ不安を拭い去れてはいなかった。つい先程までのいつ終わるとも知れぬ闇の中を進み続けていたときとはまた違う、異質な惧れが膨れ上がっていた。嫌な予感、とでも云えばいいのだろうか。やはり模糊として実態を掴みかねる類のそれなのだが……。
車はアーチ状の門をくぐり、左にカーブした。脇にあるガレージの前で車は一旦停まり、有寨さんが降りてガレージの扉を開けてからまた戻り、車を中に入れた。ガレージの中の電灯はオレンジ色のなんだか頼りないものだったが、ずっと薄闇の中にいたためにいくらか心が落ち着いた。
「きゃっ、寒っ」
車から降りた舞游の第一声はそれだった。僕も思わず声をあげそうになった。肌を刺すような外気に、全身の毛穴が一気に引き締まる。これに晒されていたら十分もしないうちに凍り付いてしまうだろう。
僕らはトランクから各自荷物を取り出し、いよいよ屋敷に向かって歩き始める。玄関は屋敷の中央にあった。その上からは半円状の屋根が突き出ていて、二本の柱に支えられていた。
「冬に来たのは初めてですが、風情があって良いですね」
意外にも杏味ちゃんは澄まし顔で、そんな余裕に満ちた感想を洩らしている。
しかしこのある種の不気味さをまとった屋敷の外観を風情があると云って片付けることは、少なくとも僕にはできなかった。
積雪に耐えなければならない立地だからだろう、建物は石造りである。窓の位置を見るに三階建てと分かるが、各階の高さが普通の住宅とは異なるため、それ以上に高さがあるように映る。あるいはもっと別の心理的な理由も作用しているかも知れない……。
杏味ちゃんから鍵を受け取った有寨さんが玄関扉を開けた。両開きの木の扉が、勿体つけるかのように物々しく手前へと開いていく。
有寨さんは僕らに振り返り、芝居がかった口調で告げた。
「環楽園にようこそ」
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