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第一章:環楽園の殺人
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目が覚めた。クリーム色の天井が見えている。そこに、ぬっと舞游の顔が現れた。
「やっと起きたかー」
「……ああ」
寝起きの上手く働かない頭で、いまの状況を思い出す。環楽園に着いて簡単に中を案内された後、割り当てられた部屋のベッドで僕は眠ってしまったのだったか……。
「うなされてた。怖い夢見てたの?」
「よく憶えてないけど、そんな感じがするな」
全身が不快にまとわりつくような汗で湿っている。暖房が効き過ぎているのだけが原因ではないだろう。
「あは、子供みたい」
舞游はころころ笑った。彼女はベッドの傍らに置いた椅子に座っている。
「元気だな……そうか、お前は道中ずっと眠ってたもんな」
「え? ああ、そうだね」
腕時計の表示を見ると22:04。そう長く眠っていたのではないようだ。中途半端に眠ったせいでむしろ疲労感が如実に表れた重い身体を起こし、僕はベッドの上で胡坐をかいた。
「舞游、夕食をつくってたんじゃなかったか?」
「霧余さんったら酷いんだよ。私がちょっとミスしただけで、足引っ張るだけだから手伝わなくていいって」
「お前のちょっとが他の人からしてもちょっととは限らないぞ」
「なんだー? 觜也も私の敵かー?」
長らく運転しっぱなしだった有寨さんが自室で休んでいる間に、女子三人が夕食を拵える段取りになっていたのだ。僕は料理ができないので暇をもらったのだけれど、舞游も女の子らしい家事なんて得意なはずがなく、お役御免となったらしい。
「で、どうして僕の部屋にいるんだ」
当然、僕と彼女に割り当てられた部屋は別々だ。客室は有り余っており、同室なのは有寨さんと霧余さんだけで、これは本人達の希望でそうなっている。
「退屈だから遊びに来たんだよ。そしたら寝てるんだもん。寝顔が間抜けで面白かったから起こさなかったけど」
僕はこの滞在中に機会を見つけて舞游の寝顔を馬鹿にしてやろうと内心で誓った。
「夕食はそろそろできるのか?」
「そうだね。できたら霧余さんが呼びに来るはずだよ」
「寝汗かいたから、先にシャワー浴びたいんだけど」
「大丈夫じゃない? シャワーが済んだころにはできてると思うから、そのまま食堂に来るといいよ」
「そうする」
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