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この客室はホテルのそれを思わせるが、さすがにシャワールームが各々についていたりはしない。浴場の場所は聞いていたので、僕はキャリーバッグからタオルや着替え類を出して手提げのバッグに入れ、それを持って舞游と共に部屋を出た。彼女はまた調理室に行くつもりらしい。
三階の廊下である。客室はこの南館の二階、三階に集まっていて、僕と舞游が三階、他の三人は二階の空き部屋を適当に使うことになっている。全員が二階でも良かったのだが、せっかく大きい屋敷なのだから贅沢に使ってしまおうという考えのもとだった。
南館と云う以上、この屋敷にはもうひとつ、北館もある。来る前に霧余さんが説明してくれていたのを僕は聞き取れなかったが、この屋敷の形は上から見てカタカナの〈エ〉なのだ。正面が南館で、その奥にもうひとつ北館があり、両者を一階分の廊下(これは廊下館と呼ばれているらしい)が繋いでいる。
南館だけでも大きすぎるくらいなのにそれでも半分に過ぎなかったとは驚いたけれど、北向きの窓から見た北館は南館より小さめだった。横幅はあまり変わらないが、二階建てだ。ただし北館はプライベート用の館らしく、今回僕らが自由に使えるのは南館だけとのことである。
「雪、どんどん激しくなるなあ」
舞游が窓の外を見ながら興奮気味に云った。外は真っ暗闇なので、この廊下から洩れた明かりで照らされた範囲しか見られないが、その中で踊り狂う弾幕めいた白い結晶と不穏な風の音からも充分に判断はできる。
「わくわくするね、この閉鎖感」
舞游はスキップでも始めそうな足取りだ。
「でもずっと激しいままでも詰まんないよね。ほら、雪で遊んだりしたいし」
「子供っぽいな」
「なに、觜也」
ぴたりと足を止めて振り返ると、舞游は僕の肩を人差し指で小突いた。
「もしかしてお兄ちゃん達に感化されて、大人ぶりたくなっちゃったの? やめてよね、私達は子供枠なんだから、無邪気にやっちゃうべきなんだよ」
つい先程悪夢で目覚めたのを『子供っぽい』と笑われた意趣返しのつもりだったのだが、彼女はそんなこと忘却しているらしかった。
「大人ぶるつもりなんてないよ。僕が他人にひょいひょい感化されたりするタイプに見えるか?」
「ならいいけど」
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