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あるいは浮世から離れて一風変わった催しを楽しみたいと考えるような友人が相当数いるのかも知れない。ゆえの客用である南館とプライベート用である北館……そう考えるといくらか得心がいった。
身体を洗っている間にも外の吹雪は刻一刻と激しさを増しているらしく、窓を殴る風の音が剣呑なふうに響くたび、心細い思いに駆られた。男の叫び声が聞こえたような気がして辺りをキョロキョロと見回してしまった際には、自分が思いの外臆病者と知って情けなくなったくらいである。
湯船にも浸かろうかと思ったが、そろそろ夕食も始まるだろうと思い直してやめた。ひとりで浸かるには湯船が無駄に広いので、湯を張るのに時間もかかりそうだった。ただ聞くところによると、ひととおりの設備はすぐに使えるようになっているらしい。と云うのも、巻譲家の方で人を雇って、数日前にこの屋敷中の掃除なんかは済ませているとの話だ。至れり尽くせりとはこのことである。事情もよく分からないままに舞游に連れてこられただけの僕なので、少し申し訳なくなってしまう。
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浴室を出て廊下を戻ろうとすると、ロビーの方から杏味ちゃんが歩いてくるところだった。もしかして僕を呼びに……? いや、それなら舞游が来そうなものだ。
声を掛けようとしたが、杏味ちゃんは僕に気付いていないわけもないだろうに、構わず扉のひとつを開けて中に這入っていってしまった。『図書室』だ。もう夕食の時間ではないのだろうか……一体何の用があってこの中に……と不思議に思い、僕も半開きになった扉の隙間から内部に足を踏み入れた。
多くの書物に占められた空間特有の匂いが立ち込めている。
年中使われるのでもない別荘の図書室であるにも拘わらず、学校なんかのそれにも引けを取らないくらいに立派だった。広さは若干負けているものの、身の丈以上の本棚が犇めいている様から鑑みるに、蔵書数は上回っているに違いない。図書室というよりも書蔵庫と呼ぶ方が適切で、少し窮屈でさえある。
「杏味ちゃん?」
本棚の間を縫うように探していると、そう広大な室内でもないため、すぐになにやら目当ての本でも探している様子の彼女を発見することができた。
「どうしたの? まさかもう夕食は終わっちゃった?」
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