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「ね、お願いだよ。来年は受験生だし、この冬休みがラストチャンスじゃんか」
「あれ、受験とか考えてるんだな。意外だ」
「あー、あんまり考えてないけど……。だけどほら、私達って全然外で遊んだ思い出とかもないしさ、お泊りとかしてみたいなー」
精一杯の訴えかけなのだろう、眉を悩ましげに寄せて上目遣いで僕の反応を窺っている。
「……分かったよ。そう云われると、意固地になって断る理由もない」
「あは、ありがとう」
一変してご機嫌な笑顔を浮かべ、またメロンパンを齧り始める舞游を見ると、どうしたって僕は彼女の頼みを断れないのだろうと改めて思わされる。
「でも環楽園だっけ、随分と大仰な呼び名だな」
「そうでしょ。ぞくぞくするよね。真先に連想される単語はクローズド・サークル」
「環……CIRCLEねえ」
クローズド・サークルとはミステリ小説なんかでもてはやされる舞台の一種で、たしか外部と遮断された閉鎖的な空間のことだったか。舞游はその手の話を愛好しているから馴染み深いのかも知れないが、僕としては少なくとも真先に連想されるなんてことはない。
「いやいや、字面もそうだけど、実際にその別荘は誂え向きなんだよ。岩手の山中にあってさ、雪で閉じ込められちゃったりするもんだから、その元生徒さんのご家庭でも真冬には利用しないんだって。だから私達が使えるんだよ。家ってのは放置してると意外にすぐ駄目になっちゃうものだから毎年物好きな――」
「ちょっと待て。それって結構危険じゃないか?」
「ふふ、面白そうでしょ? でもそう危険でもないんじゃないかな。行く日は天候と相談しながら決めるみたいだし、予定では三泊四日なんだけど、下山が無理そうだったら少しくらい伸ばしても問題ないじゃん。家の中は暖かいんだし、まさか飢え死にとかの心配もないでしょ。いざとなったら助けを呼べばいいよ」
「まあそんな大事には至らないと思うけど……そうか、そのくらいの方がただのバカンスと趣が違って面白いのかも知れないな」
話を聞く限り舞游のお兄さんが発案者なのだろうが、舞游の兄だけあって少なからず酔狂な人らしい。他人の別荘に環楽園なんて奇妙な呼び名をつけるあたりからもそれは察せられる。
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