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そう明け透けに云われると怒る気もなくなってしまう。……いや、正直なところ、僕は怒るどころか安心していた。〈昨日のこと〉があったから心配していたというのが本心で、だからそれが杞憂と知れてほっと脱力したのである。
……そうは云っても、事情を聞かないで済ませるつもりはないが。
「どうしてまたそんな、突拍子もないことを」
「うーん」
馘杜は唇を突き出して唸り、しばらく考えた。
「なんだろ……しっかり捕まえておきたかったから、とか?」
「……余計に分からなくなったんだけど」
「上手いやり方が分からなかったんだよ。そうしないと、なんかこう、居てもたってもいられなかったって云うか……でも反省はしてる。それで逃げ出してきたんだし」
彼女は項垂れ、態度でも反省の意を示した。その意気消沈ぶりを見るに、本当に反省はしているらしい。
「……僕もいまこの短時間で推理したんだけど」
まるで出鱈目な馘杜の行動の数々だけれど、きっとそれは彼女自身からすれば切実な感情の顕れなのだろう。彼女は皆とろくなコミュニケーションが取れないが、それだって彼女にばかり原因があるわけではなく、そもそも周囲が彼女を理解しようと努めていないのだ。すべてを奇行の一言で片付け、はなから彼女に寄り添おうとしていない。心を開いていないのは一体どちらなのか……〈昨日のこと〉があって彼女に対する見方が変わった僕には、それが分かる気がする。
僕には彼女の心を、いくらか読み取ってやれる気がするのである。
「馘杜は僕と友達になりたいんだろ」
彼女は目を丸くした。そして一瞬の間の後、半ば身を乗り出すようにして「そう!」と首を縦に振った。
「名探偵だね、結鷺は!」
だが次の瞬間には我に返ったかのようにさっと身を引き、今度は困惑気味の表情を浮かべるのだった。
「そう、それで正解なんだけど……正解なんだけどさ……」
らしくもなく口籠る馘杜。
「いいよ」
「え?」
「友達。まあ僕もあまり人付き合いが達者な方じゃないとはいえ、こんなふうにいちいち許可したりしてなるもんじゃないと思うけどな」
馘杜はキラキラという効果音が聞こえてきそうなほど表情を輝かせた。本当にころころと変わる子である。
「そっか。そっかそっかそっか」
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