34人が本棚に入れています
本棚に追加
ご機嫌そうに笑いながら何度も頷き、それから云った。
「よろしくね、結鷺!」
「うん、よろしく」
主義に反して自ら厄介事を引き受けてしまったようなものだけれど、不思議と僕も嫌な気分ではなかった。
2
年の終わりが迫るにつれて世間が慌ただしさを増していくなか、学生である僕らは一足先に冬休みに入った。クリスマスが終了しての十二月二十六日、僕と舞游は新幹線に乗って都心の駅までやって来ていた。
「思いの外、なんにもないね。ビルはやたら高いけど」
迷路のような駅構内に苦戦しながらもどうにか外に出られて、舞游がまばらに建った高層ビル群を見上げつつ述べた感想はそんなものだった。約束の午前十一時まではあと五分ほどある。
「こっち側は皇居のある方だしな、落ち着いてるんだろ。舞游はあまり来たことないのか?」
「小さいころにパパの運転する車で何度か来たことはあったと思うけど、よくは憶えてないかな。この辺には来なかったと思うし」
そんなところだろうと察しはついていた。彼女は新幹線の利用の仕方すらよく分かっていなかったので、ここまでの道中も全面的に僕が面倒を見てきたところである。僕だって慣れているわけではなかったし、都心に子供だけで来るのは初めてだが。
「んー、寒いなー」
効果があるのか怪しいけれど、舞游はその場で小さくピョンピョンと跳ねている。彼女は学校の制服の上から赤いダッフルコートを羽織っていた。曰く「私服の持ち合わせがあんまりないから、初日はこれでいいかって思ってさ」とのことである。
「これからもっと寒い場所に行くんだろ。その別荘、夏は避暑地で良いだろうけど、冬にわざわざ過ごそうってのはやっぱり相当おかしいよな」
「良いじゃん良いじゃん、通例に反旗を翻す感じ」
「僕はお前ほどひねくれ者じゃない。……まあ、これから会う三人はきっとお前寄りなんだろうけど」
「お兄ちゃんは私よりぶっち切ってるよ。他の二人もお兄ちゃんと親しくなれる以上、尋常な人格じゃないだろうね」
変わり者は舞游ひとりで充分なのだが……先が思いやられる話だ。
最初のコメントを投稿しよう!