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一年前
黒丸と里穂は一週間の休みを実家で過ごすことにした。家に帰っても一人だと暇だという里穂の意見から実家で過ごすことを強く希望したのである。黒丸は最初は反対したが里穂の性格を知っている以上腹を括った。
その日は雨が止んでいるが、太陽は見えず薄暗い雲が広がっていた。
黒丸は里穂の付き添いで買い物に行った。もちろん誠の働いているスーパーではなく、隣町のスーパーに行った。里穂は誠のスーパーでいいじゃんと言われたが、黒丸はもっと良いものが売ってあると言い連れてきた。自分でも良いものなど分からなかった。
スーパーでは安定のポテトチップスを買って、一つ花束を買った。
「これが奏介のいう良いもの?」
「まぁ」
本当は違う。別の目的で買ったんだ。
「誰に渡すの? もしかして妊娠祝いに私?」
「違うんだ。友達に持って行こうと思って。」
里穂の冗談を軽くあしらいそのままレジに通した。
帰り道家と例の建物へ向かう分かれ道で黒丸は里穂と分かれようとした。
「花束渡しに行くから先に帰ってて。」
「え、私もついていこうか?」
「いや、大丈夫」
黒丸の態度に疑問を持ったが里穂は深く詮索しようとしなかった。
黒丸は里穂の気遣いに感謝し例の建物へ向かおうとした。しかし、声が聞こえた。聞き慣れない声だった。
「あー青原さん!」
「あっどうも」
里穂の発言ですぐに振り返った。誠がいた。里穂は振り返った黒丸を手招きした。
声変わりをした二十年ぶりの誠の姿に大きな恐怖を感じた。
「こちら夫です。」
里穂の挨拶に乗って誠に会釈をする。
誠はその言葉の意味を聞くなりその夫に怒りが込み上げてきた。誠は返しの会釈をせず里穂を通り過ぎ黒丸のところに歩み寄る。歩き方が少しぎこちなかった。
「ここに何しにきた?」
爽やかな口調で話す誠を知っていた里穂は、誠の荒れた声を聞いて少し驚いていた。
黒丸は恐怖心に襲われ下を向いている。そんな黒丸を見て誠は畳み掛ける。
「何しにきたって聞いてんだよ!」
里穂は誠の豹変ぶりに足を後ろに下げた。
「妻の妊娠を実家に報告しようと思って‥」
拍子抜けの返答に怒りを抑えれない誠は黒丸を殴り飛ばした。地面に背中をつく黒丸。その黒丸に容赦せず誠は黒丸にまたがり誠の首を締めはじめた。
「お前が姉さんを……!」
黒丸は息が上手くできず手足を無意味に動かす。里穂は即座に対応し誠を引き剥がそうとする。
「青原さん! 何をしているんですか!」
里穂の手を力を込めて吹っ飛ばす。里穂も地面に背中をついた。振り払った分誠の手から解放された黒丸は息を急いで行う。
「なんのためにここにきた?」
誠は気持ちを落ち着かせ立ち上がり黒丸に再度問う。
無言で見つめる黒丸を見下ろして間髪入れずに黒丸に語る。
「お前があの時姉さんを殺した。」
見下ろした先にある花束が目に入った。
「それは何だよ。ひょっとしてあの建物に備えるつもりか。」
図星だった。黒丸は下を向く。里穂は泣きそうになりながらも誠を睨み様子を見守る。
「姉さんもお前みたいな人殺しに来てほしくないんだよ! あそこは俺と姉さん二人の場所だ。お前みたいな外道が勝手に足を踏み入れるな!」
誠は思いっきり花束を踏みつける。
あの場所に置かれていた花束は誠が用意したものだった。
誠は言いたいことを言った後我に帰ったように里穂に足を引き摺りながら駆け寄る。
「すみません! 俺なんてことを……」
誠は里穂に手を伸ばしたが里穂は誠の手を払い除けた。
「触らないで! 何なのよあなた……いや、あなたたち」
誠は里穂の態度を見て無言でその場から立ち去った。黒丸は呆然としていたが、すぐに里穂に駆け寄り手を伸ばした。里穂は仕方なさそうにその手を掴んだ。
二人は無言で実家に帰った。
実家では里穂はいつも通りに両親の相手をしていた。黒丸はまた味のしない夕飯を食べる。
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