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二十一年前
当時14歳の黒丸は学校に着き、朝のチャイムがなるまで友達の新田悠とくだらない話で盛り上がる。
新田とは小学校の頃からの友達で仲が良すぎてなかなか同じクラスに振り分けられることがなかった。しかし中学二年生になってようやく同じクラスになることができた。黒丸と新田はともに陸上部に入部しており、放課後になったらすぐに部活に行っていた。だが、楽しいことが確定されていたクラスに行きたくなくなったのはすぐだった。
チャイム5分前に決まって青原美緒が登校してきた。黒丸と新田は思わず唾を飲む。盛り上がっていた会話が止まる。
美緒は誰とも喋らず自分の椅子に座り、カバンを下ろしたらすぐに机にうつ伏せになった。
「今日も来たのか……」
新田は声を漏らす。その言葉には小さな絶望が混じっていた。
そしてチャイムと同時に千川高貴が教室に入ってきた。教室に入るや否やすぐにうつ伏せの青原の前に行き、美緒の耳元で、
「おはようございまーーーーす!!!」
声高らかに叫んだ。美緒はすぐに起き上がり耳を手で覆う。そんな美緒を気にせず千川は続ける。
「今日もよく来たねーー! 俺と遊びたいのかなーー?」
他のクラスメイトも冷ややかな目で二人を見守る。
美緒はただ耳を塞いでいる。千川は自分を無視してる美緒に段々と怒りが込み上げ、美緒の机を手加減のない力で蹴る。
「無視してんじゃねーよ! お前みたいなブスがよ!」
怒りをぶつけ、少し落ち着いた千川は自分の席につく。他のクラスメイトもチャイムが鳴ったことを思い出し席についた。
これがこのクラスの日常。千川が美緒をいじめ、他の生徒は怯えながらやり過ごす。
黒丸は学校に行きたくなかった。無抵抗の女子をいじめる異様な光景は見てられない。
でもなぜ学校に行っているのか。それは美緒が毎日来ているからだ。一番行きたくないのは美緒なのに、何もされてない黒丸が休むのは申し訳ない。
少しして担任の木村京子が来た。歳は40を超えたあたりで若くもなく老けてもいない。女性にしては肌に気を使わず、顔にシミがある。
木村が来ても美緒は千川の行動を報告しなかった。また、他のクラスメイトも何も言わなかった。
おそらく木村は千川が美緒をいじめていることを知っている。だが面倒ごとが嫌いな木村は見て見ぬふりをしているのだろう。自分のクラスでいじめが起きていれば、自分の教師人生にキズがついてしまうからだ。
そのことを美緒も悟っているのだろう。木村に言ったところで何も解決しない。
耐えるしかない。自分が我慢すれば何も起こらないのだから。
黒丸は美緒と千川の行動を見て、助けよう、守ろう、そんなことを考えては行動に移せなかった。助けたら自分もいじめられるのではないか、
助けても何も変わらないんじゃないか。
別に美緒のことが好きというわけではないが、助けたいという思いは自分の心の善意から湧いてくる。その分自分の弱さを知った。
黒丸以外の生徒もおそらく皆そう思っていた。
黒丸は自分の無力さを日々痛感していた。
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