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二十一年前
黒丸は千川に目をつけられたことで家に帰っても両親の言うことが耳に通らず、味のしない夕飯を食べ、寒い風呂に入った。
布団の中に入ると恐怖が強まった。明日俺は千川にいじめられる。
新田があんなことをしなければ。
後悔していると残酷なことに、気づけば朝になっていて、味のしない朝食を食べた。
両親になにか嘘をついて学校を休もうと思ったが、もう諦めることにした。
千川は新田だけを目の敵にしているという希望がわずかにあったからだ。
あの時黒丸は傍観者に徹していた。自分は関係ない。そう思い込み登校する。
教室の戸を開けると新田がいた。深刻な顔をしていた。不思議といつも通り会話しようとする気になれなった。自分の椅子に座り時計を見つめていた。
しばらくして美緒が入ってきた。俺たち二人の方に来て「昨日はごめんね」とそれぞれに言って自分の机に座った。
美緒はうつ伏せにならず堂々と座っていた。
チャイムと同時に戸が開いてクラスの会話が止まった。千川が来た。黒丸はかつてないほどの恐怖心に襲われた。
堂々としている美緒を見て千川は何も言わずにいつものように美緒の机を蹴り飛ばす。
「やめろよ」
いつもの沈黙が破られた。新田が千川と美緒の方に行き声を発した。
周りの傍観者たちはひどく驚いている。
「青原さんに乱暴なことすんなよ。」
千川は何も言わず新田を睨み返す。
「青原さんだって千川に悪いことはしてない。悪いのは全部不審者なんだろ。」
新田の勇気ある行動に感化された黒丸は、千川の方に向かって行った。
「怪我して本調子に戻れないからやめるなんて所詮お前にとってサッカーはそんなもんなんだったんだ。」
なぜ自分でも会話に参加したのかは分からない。だが黒丸も自然と嵐の中に入っていた。
黒丸が入ったのと同時に周りの傍観者たちもざわざわしている。
「青原さんかわいそう」
「もうやめてあげなよ」
そういった野次が小さく飛んでくる。
「うるさいうるさいうるさい! 黙れ!」
そういって千川はその辺にあった椅子を黒丸に投げ飛ばした。幸い黒丸には当たらなかったが、傍観者たちが悲鳴を上げる。
そのまま千川は戸を開け帰って行った。
嵐は止んだのだ。
それと同時に木村が入ってきた。
千川が帰るのを見たはずだが、何も言わず出席をとる。
昼間に新田と黒丸は美緒に改めて感謝された。
「さっきはありがとう」
「いやいいよ」
「青原さんこそ今まで助けてあげれずにごめんね」
「青原さんじゃなく美緒でいいよ」
黒丸と新田は少し照れながら美緒と話す。
「うちの弟サッカー部でさ。よかったら今度黒丸君と新田君でサッカー付き合ってくれない?」
黒丸と新田は女子に遊ぶのを誘われたことに嬉しく感じ了承することにした。今週の日曜日にすることにした。
そして何も起きずに日曜日になった。千川は学校に来なかった。美緒は傍観者に徹していた女子からも話しかけられるようになり学校生活が充実しているように感じた。
日曜日に指定された公園に新田と黒丸は赴いた。部活の軽めなシャツとズボンを着てきた。女子と会うからといって変にオシャレしてくるのは恥ずかしかった。
少し遅れて美緒はサッカーボールを抱えた誠を連れてきた。美緒の服装は白色のワンピースと水色のロングスカートをしていた。誠はただ動きやすい格好を重視していた。
「はじめまして、悠です。」
「奏介です。」
「俺誠。よろしく」
年上の二人に対して警戒心を見せながら敬語を使わずに自分の名前を名乗った。
それから三人でサッカーをした。美緒はベンチに座りそれを眺めていた。
サッカーを終える頃には誠と心を打ち明けていた。
「また遊ぼーな、悠、奏介」
「こら、悠さんと奏介さんでしょ」
注意されても笑っている誠にどこか安心した美緒は公園から去って行った。新田と黒丸は二人の姿が見えなくなるまで手を振っていた。
千川は影に隠れて四人の行動を見ていた。四人はそれに気づかずその日は過ぎていった。
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