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二十一年前
日曜日が明け、学校が再開する。新田と黒丸が二人で盛り上がっていたらいつもより早く美緒がクラスに入ってきた。
黒丸と新田を見て微笑みながら会釈をし、二人も釣られて会釈をする。
美緒は自分の机にカバンを置いて最近仲良くなった女子グループの方に行った。
遠くから見る美緒は今までの青春を取り戻すかのように楽しんでいるように見えた。
しかしクラスの戸が開かれるのと同時にクラスに静けさが蘇る。
千川が学校に来たのだ。千川は無数の視線を感じながらも自分の椅子に座った。久しぶりに見る千川は髪を金色に染めていた。
千川はただ美緒を睨み続けている。
しばらくすると木村が来た。学校の校則的に金髪は禁止されているが、千川を見た木村は何も言わず出席をとる。
事件が起きたのは木村の国語の授業だった。木村の話を聞いているフリをしながら各々別のことを考えている。そんな時黒板に向かって消しゴムが投げられた。
木村は恐る恐る後ろを振り返ると千川がクラスの一番後ろで立っていた。
木村は恐怖を隠しながら千川に話しかける。
「今は授業中です。席を立たないで下さい。」
「この授業意味あんの? だってクラスの皆誰も先生の話聞いてないよ」
その通りであったので傍観者たちは千川を見つめる。
「本当ですか、皆さん」
「青原もそう思うよな?」
千川は質問の対象をクラス全員から美緒に絞る。美緒は気まずそうに答える。
「私は聞いてるよ」
千川は面白くなさそうにそっぽを向いた。
「怪我をしてサッカーができなくなったのは悲しいと思うけどその分千川君も勉強を頑張ればいいじゃん。」
何気ない美緒の提案を聞いた途端千川は自分の椅子を美緒に向かって投げ飛ばした。
美緒の肩に椅子が当たった。クラスの女子は悲鳴をあげ、男子は皆壁の方に退避した。
前も黒丸がサッカーについて触れたら椅子を投げ飛ばした。どうやら千川はサッカーについて触れられたくないらしい。
「サッカーサッカーってどいつもこいつもうるせーな! 俺はこいつのせいでサッカーができなくなったんだよ!」
「もう良い加減にして!」
大声で叫んだのは木村だった。初めて木村の声から聞く叫びは千川の怒声よりクラスの注目を集めた。
「知ってるのよあなたが青原さんに暴力を振るっているのは! もういい歳なんだからいじめがだって分からないの? あなたみたいな脳を使わずに脊髄だけで判断している単細胞には関わりたくないの! 私を巻き込まないで欲しい! やるんだったら二人で勝手にしてればいいじゃない!」
おそらく本音を全て吐露した木村は急いで教室から出ていきトイレに逃げていった。千川の吐き出す音が聞こえる。
千川も木村を見届けてそのまま学校から出ていった。黒丸は千川の椅子をもとに戻す。保健委員の女子たちは急いで美緒を保健室に連れていった。
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