7人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
01. N-35 "SANGO"
「N-35、愛称はサンゴ、間違いないな」
視界の中心で佐藤タクマがビジネスチェアに深々と腰掛け、手元の台本に目を落としている。
こちらに話しかけてはいるものの、台本から片時も目を離そうとはしない。N-35は佐藤タクマの表情に「警戒」の感情を読み取っていた。
「先の大戦で大破したN-10をベースに設計されたプロトタイプAI、を搭載したアンドロイド、そう聞いている」
実際はメールによる書面のやり取りだったため、この場合「そう“読”んでいる」というのが文法として正しいのではないか、とN-35は思考した後、指摘後の会話を再現した。
再現の中の佐藤タクマが「不快」の感情を表したため、N-35は沈黙することが最善と判断した。
「もっとも、僕は機械技術に関してはずぶの素人だ。専門的な知識もないし、君がどこまで僕の言葉を理解しているのかもわかっていない。そもそも、AIとアンドロイドの違いもわからん。あくまで僕ができるのは、芸能活動のバックアップとアドバイス程度だ」
AIは人工知能、つまり自律的に思考するシステムそのものを指すものである。
アンドロイドというのは、いわゆる人間もどき、人間に似せて作られたロボットのことを言う。
N-35は知識を参照したが、発言した場合の再現で佐藤タクマが「不快」の表情を浮かべたため、今度も曖昧に微笑むことにした。
佐藤タクマが視線を上げる。
有機的な生物、ヒトにしては珍しい、左右線対称の顔立ち、完璧なまでに平均値に配置された目、鼻、口。瞼は二重のしわが寄っていて、眼球の露出面積は比較的広い。
鼻筋は直線的で、唇はやや肉厚である。
「イケメン」と表現される顔の特徴に合致することを、N-35は確認した。
最初のコメントを投稿しよう!