01. N-35 "SANGO"

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01. N-35 "SANGO"

「N-35、愛称はサンゴ、間違いないな」 視界の中心で佐藤タクマがビジネスチェアに深々と腰掛け、手元の台本に目を落としている。 こちらに話しかけてはいるものの、台本から片時も目を離そうとはしない。N-35は佐藤タクマの表情に「警戒」の感情を読み取っていた。 「先の大戦で大破したN-10をベースに設計されたプロトタイプAI、を搭載したアンドロイド、そう聞いている」 実際はメールによる書面のやり取りだったため、この場合「そう“読”んでいる」というのが文法として正しいのではないか、とN-35は思考した後、指摘後の会話を再現した。 再現の中の佐藤タクマが「不快」の感情を表したため、N-35は沈黙することが最善と判断した。 「もっとも、僕は機械技術に関してはずぶの素人だ。専門的な知識もないし、君がどこまで僕の言葉を理解しているのかもわかっていない。そもそも、AIとアンドロイドの違いもわからん。あくまで僕ができるのは、芸能活動のバックアップとアドバイス程度だ」 AIは人工知能、つまり自律的に思考するシステムそのものを指すものである。 アンドロイドというのは、いわゆる人間もどき、人間に似せて作られたロボットのことを言う。 N-35は知識を参照したが、発言した場合の再現で佐藤タクマが「不快」の表情を浮かべたため、今度も曖昧に微笑むことにした。 佐藤タクマが視線を上げる。 有機的な生物、ヒトにしては珍しい、左右線対称の顔立ち、完璧なまでに平均値に配置された目、鼻、口。瞼は二重のしわが寄っていて、眼球の露出面積は比較的広い。 鼻筋は直線的で、唇はやや肉厚である。 「イケメン」と表現される顔の特徴に合致することを、N-35は確認した。
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