輪廻Ⅱ『頽運』

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「彼は天命を全うしました。神々しい最後です」 「あんたは何を言っているんだ。おい救急車を呼べ」  警備員が叫んだ。 「だから天命を全うしたんです。こんな素晴らしい死はなかなかないんですよ」  そして翌日競輪場の近くで通夜が行われた。柏木にご祝儀を渡し損ねた客が参列した。 「おっちゃん、赤字や」 「おっさん、ここで死んだら元取れへんがな」  口々に悔みの言葉を残して香典袋に入れたご祝儀を納めていた。  そして10年後に平塚競輪にこうたろうがいた。 「はい穴、穴、大穴だよ。3は要らないよ」  客の中に混じり金原仙人が立っている。 「あれ、どっかであったかな」 「いや」  金原仙人は200円を渡した。予想を受け取る。レースが始まった。ジャンが鳴る。本命の3で決まった。 「博打の才能無しまで転生してしまった」  金原仙人が外れ券を空に投げた。ハンチングを脱いで頭を掻くと大きなフケが風に飛ばされる。癪がタイルの割れ目から出て来てフケを啄んだ。 了
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