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輪廻Ⅱ『頽運』
競馬人気が上がる一方、競輪人気は落ちている。各地で廃止される競輪場が相次ぐ。ここに四宮競輪場の前身が鳴尾競輪場で1950年に大きな事件があった。それは競輪史上最悪の事件となった。実用車レースで選手がグランピングの不具合があり審判に申し入れをしたが聞き入れられずレースは成立した。ファンは暴徒化し警官役600名とMPによって鎮圧されたが威嚇射撃でファン1名が死亡した。それが語り草となり近隣住民から不安視され、ファンが惜しむ中、西宮競輪場も2002年に廃止となった。
「お酒にビール、玄豆がひゃくえ~ん」
「おばちゃん、明日で終わりやな、どっか行く当てあるのかい?」
売店の留ばあさんに声を掛けたのは予想屋の柏木である。
「そう言うあんたこそどないすんの?うちは孫の世話になることにしたど」
柏木は古希を迎えた。18の時に鳴尾事件を経験した。予想屋の勢子として場内を走り回っていた。
「そうやなあ、いつの間にか70になってもた。気ぃ付きゃ友達もええ女もおらん。病気にでもならなええがな。まあぽっくり逝くこと期待しとる」
最終12レースの予想表を書いている。
「ぽっくり逝こう思とる人に限って、往生際が悪いねや。うちの旦那がそうやった。倒れてから3年も生きとった。大変よ家族は」
留ばあさんが笑って言った。ニッカポッカにハンチングの男が柏木の前に立っている。
「はい、穴穴、大穴、このレースは穴で決まり」
柏木の予想は大穴である。ニッカポッカが柏木の前に出た。
「はい二百両」
二百円支払ってメモ用紙を受け取る。メモには柏木の予想が記してある。
「一応4を押さえといて」
予想は本命の4番を外しているが気になるようで口で付け足した。
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