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「あんたは医者ですか?うちの苦しむ声を聴いて立ち寄ってくれたんですか?」
柏木はそれ以外に考えられないと思った。
「医者じゃありません、ただ医者じゃ直せない命の管理をしています」
「医者とちゃうけど命の管理ですか?そらまたやぎろしいお仕事ですなぁ」
金原が名刺を出した。
「金原、仙人てあんた」
柏木は金原の顔と名刺を交互に見比べている。
「あなたがもう一日だけ寿命を延ばしてくれと神様に祈りましたね。それが私に通じたんです」
「やったらあんたは神様か?」
「いいえ、名刺の通り仙人をやっています。謂わば神の小間使いですね。あなた方の商売で言うと勢子ですね」
「おもろい人ですなぁ」
柏木が微笑んだ。
「私の得意は輪廻転生です。人間が今際の際に神に祈る。それを拾い私が参上する仕組みになっています。これは神からお任せでやらせていただいています。だから多少の勉強は私の好みでしてしまう。さっきあなたの痛みを吸い取った時に序に寿命を計りました。あの時が天寿です。本来はあのまま御臨終ですが私の采配で一日延ばしました」
よくよく考えてみれば勝手に上がり込んで能書きを言うこの男に腹が立ってきた。しかしこの男が額に指を触れてからすっかり痛みは治まっている。満更嘘吐きでもなさそうな気がした。
「助けてくれたお礼や、安酒やけど一杯どないや」
「いいですね、安酒の方が好みです。最近のフルーティーな甘さはどうも飲んだ気がしない。安酒大いに結構、いただきます」
「安酒安酒って、なんか褒められてんだか貶されてんだか分からんけど2升あるからどうぞ好きなだけ飲んでくれてや」
万年炬燵に足を突っ込んで飲み始めた。金原仙人の飲みっぷりに柏木が驚いた。
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