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「そやけどええ飲みっぷりやなえ、それに悪酔いせん。うちの勢子で飲むとガラッと変わるのんがおったわい。一瞬で変わるんやど。飲み屋じゃ仮面ライダーって渾名が付いとったど」
金原仙人はほとんど酔わない。酔わないが酒の味が好きなのである。以前力士と飲み比べをしたことがある。力士は1斗飲んで倒れた。裸で鼾を掻き始めた力士に風邪を引いちゃいかんと浴衣を掛けた。そのあと金原は蕎麦を5枚食って帰ったことがある。
「気にしないでください。2升で足りないなんていいませんから」
「そらもっとちょうだい言いよるのとおんなじとちゃうか。隣から借って来るわい。隣も大酒のみなんや」
柏木は隣から2升を借りてきた。無くなるまで飲むのが金原流である。
「もうあらへんよ、どっからも出てこんよ」
柏木が音を上げた。
「次に来た時でいいですよ。あっ次はないか」
金原仙人の一言で想い出した。
「それでうちは明日死ぬんやんな」
「ええ明日、祈りをしっかりと受け入れましたよ」
一日延びるともっと生きたくなるのが人情である。
「ほんまに明日で終わりですか?」
「ええ、あなたの希望通り明日までです」
「そこを何とか神様にお願いしてくれんやろか?」
「元に戻ることは出来ますが先送りは駄目です。神の想定した天命を生き抜いたこと自体素晴らしいことです。それを折角一日延ばして上げたのに意外と図々しいですねあなたも」
金原仙人に釘をさされしょんぼりしている。
「そうやな、そんな虫のええ話は情けないな。神様に恥ずかしい。許してくれてや」
「いいですよ。明日精一杯生きてください」
「おおきに」
「それであなたは死後何になりたいですか?希望があれば遠慮なく言ってください」
最後の一杯を飲み干した。
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