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「少し酔うかもしれない。船酔いに似ています」
「ほんまかいな?」
「しーっ」
沈んだ指の後が光る。
「あれっ」
金原仙人は小指でこの世の終わりに触れた。
「繋がっているな」
天命の先に転生先が既に張り付いてある。金原仙人の指が浮かび上がる。掌を離した。
「もういいですよ」
「どないしました?」
金原仙人が小首を傾げている。
「あなたは最近おかしなことを経験しませんでしたか?」
「そうやなえ、さっき心臓が痛うてあんたに助けられたのが一番ごっつい出来事ですかね」
「おかしな人と出遭いませんでしたか?」
「それもあんさんが一番おかしな人や」
柏木が笑った。
「ああっ」
柏木は昼間コーチやに絡まれていた若い男を想い出した。
「どうしました。何か思い当ることがあるんですね?」
柏木はこうたろうと名乗った若い男のことを金原仙人に詳しく伝えた。
「やっぱり」
「あの男がどなしました」
その男こそが柏木の転生する人物だった。数時間早く訪れてしまったのである。神の手違いである。まだ完全にこの世に生まれていないから自分のことがよく分からない。こうたろうと名乗ったのは前世の薄っすらとした記憶である。金原仙人はこの手違いを柏木に伝えない。知れば輪廻転生に狂いが生じることがある。
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