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「明日会いましょう」
「うちは明日死ぬんですけどどないしたらええか?普段通りに行動した方がええんですかね」
「ええ、そうしてください。本来は今日死んでたんだから。拾った命をいつものように一生懸命生きることがいい転生に繋がります」
金原仙人は玄関を出た。柏木は一礼して頭を上げると既に金原仙人の姿はない。そう言えばこうたろうもそうだった。不思議な二つの出遭いに複雑な思いを感じている。
いつものように定位置に着いた。ビール箱を二つ並べた上にベニヤ板を載せた。ベニヤ板が滑らないように対角線にボルトを差し込む。1レースからの予想をメモ用紙に書き入れる。脚見せで予想が変わることもある。
「はい穴、穴、大穴、最初から荒れるよ。今日は穴の日だよ」
顔なじみが柏木の前に集まる。
「3がなあ、3がどうして人気かなあ。抑えならええわい抑えなら、そやけどこのレースは穴どいや」
柏木の展開は面白い。それに釣られて予想をかってしまう。大穴狙いに金持ちは少ない。一攫千金を狙っている職人や職工が多い。そして選手紹介である。柏木もバックストレッチ側で観戦する。スタートした。ジャンが鳴る。3が力の差を見せ付けて1着となった。2着には柏木の読み通り5が入った。柏木の予想は2着4着である。この微妙に惜しい予想がファンを引き寄せる。もしかしたら来るだろうと想像を掻き立てるのである。しかしほとんどのレースが惜しいで終わる。そんなレースが11レースまで進んだ。客の一人にこうたろうがいた。こうたろうの後ろには金原仙人がいる。柏木の声が止まった。客が小銭を手にして予想を催促する。柏木の周り一周に手が差し伸べられた。まるで千手観音のようになっている。
「みんな金は要らんよ、さあ最後の予想屋、当たるで」
柏木は料金を取らずに予想を配った。千手が引いて行く。そこへこうたろうと金原が近付いた。
「ぼちぼちでっか?」
「はい、ぼちぼちでんな」
金原仙人が答えた。
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