S.A.S.H.U.K.E.

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「さァ~~~今回もやってきました、《S.A.S.H.U.K.E.》。これで通算1,537,564回の開催になります。いったいどんな展開が待ち受けるか、いやァ、わくわくしますねェ、ロキさん!」 「そうですねぇ、前回が今いちパッとしない結末でしたからねぇ。ボクが解説に来てたらあんなしょーもないことにはしませんでしたけどね。どうして呼んでくれなかったんですか?」 「いやァ~、お呼びしたかったんですがスケジュールの都合でですね、代わりにプロメテウスさんにお願いしたんですよ。そしたら、進行が気に食わなかったのか解説席から叡智のファイヤーボールぶん投げまくりましてね。最終的に乱入して、そのまま優勝しちゃったっていう」 「あー、あいつ、とりあえず火を投げときゃいいみたいなトコあるから。おかげで今季はやたら熱くてメンブレっすわ」 「それもそうなんですが……そもそも、解説席からの介入は固くご遠慮願いたいところでして……ロキさんも、その溢れんばかりの機知を何卒、視聴者の皆様への解説という形でふるって頂きたいと願う次第なんですが」 「まぁまぁまぁ……善処しますよ」 「う~ん、不穏! 言ってても始まりませんので、スタート前の選手の様子を中継してもらいましょう! 控室のナルキッソスさ~ん?」 『ヤース! こちらはボルテージがぐんぐん高まっていますよ、FULL/DIRTYさん! あっちを見れば神様、こっちを見れば魔王。それに何より……』 「何より、なんですか?」 『僕が!!! 今日も美しい!!!!! 見ていますか!!!!! 視聴者の!!!!!!! みなさん!!!!!!!!! 美しい僕ですよ!!!!!!!!! ほら!!!!!!!!!! もっと見て!!!!!!!!!!! ほら!!!!!!!!!!!!!』パヒュンッ 「……えー、現在幻視中継が乱れましたことをお詫び申し上げます。それにしても、今回は初参加の顔ぶれが多かったですね、ロキさん?」 「そうですね~、前回から間が空きましたし……結構新しい神話がポコポコって出てきましたからね。ルーキーはここでちゃんと傷跡残していけるか、それが勝負ですね」 「う~ん、神話に《閉ざす者》なんて厨二名、ンンッ、二つ名が刻まれているロキさんが仰ると重みがありますね。ロキさんが注目されている選手はいますか?」 「そうですねぇ~……ルーキーからだったら、ジョブズ? インターフェースの概念を塗り替えたってんで、ボクらの間でも結構話題になったんですよ。解釈の拡張次第で、そこそこ粘れるんじゃないかなぁ~。あ、でもね、今回はカーリーがマジでヤバい。シヴァ滅すって言ってました」 「あっ……パールヴァティ―さん、今カーリーモードなんですか」 「ええ、ちょっとシヴァ寝すぎって激おこです。まだ和解できてないです」 「これは……今回の《S.A.S.H.U.K.E.》、だいぶ荒れそうですねぇ……物理的に。お、定刻になりました。ここで選手入場、総代により宣誓が執り行われます。今回の総代は、エジプト神話よりラー選手が務めます」 『宣誓!(ピーッ) 僕たち、私たちは!(ガーッガガッー) 持てる(ピーーーララララララッ)の限りを尽く(ガッガーッガガッ)(ウィーオーンザザザザー!)ます!』 <ッボーン!!!!! 「うーん、ほとんど何を言っているかわかりませんでしたねぇ、ロキさん」 「ちょっとSUNパワー強すぎで、拡声機が暴走しちゃってましたね。こうなることは運営側もわかっていたはずですが、まぁ今エジプト、勢いありますからね。外せなかったんでしょう」 「クフ王のピラミッドに新たな空間が発見されたと、パーコンでも話題沸騰ですからねぇ。伝統あるエジプト神話に新たな一ページが刻まれるか否か……この注目のエネルギーが概念強化に繋がり、本当に勢いのあるエジプト神話軍勢。間違いなく今回の優勝筆頭候補でしょう」 「ボクとしては熱いのダルいんで、別んとこに勝ってほしいですけどねぇ」 「さぁ、全選手がスタートに着きました。まもなく《S.A.S.H.U.K.E.》第1,537,564大会、白熱のステージの幕が切って落とされます。実況は私、FULL/DIRTYが、解説には北欧神話よりロキさんにお越し頂いています。 おっと、主審がスタートのわきに立ちました。《最後の審判の会》より、今回はウォフ・マナフ氏が主審です。今一度選手たちに口頭で注意喚起しているようです……終わりました。マナフ氏、ラッパを手にします。高らかに掲げて――」 <ポーーーーーーーーーーーフッ! 「さぁ、さぁ、さぁ! いよいよ始まりました、《S.A.S.H.U.K.E.》! あらゆるステージを真っ先に踏破し、来季の世界の運命を司る概念の栄誉に輝くのは、どの選手なのか!!」 「いやー、みんな殺伐としていてニコニコしちゃいますね」 「忘れ去られた概念ほど、世に再想起される一発逆転の大チャンスですからね。毎回死傷者も多数出ますが、それだけ皆真剣に臨んでいるのが伝わってきます!」 「《S.A.S.H.U.K.E.》やり始めた頃は、一選手のステージチャレンジが終わるの待ってから次、でしたけど、みんなマジすぎてスタート待ちきれなくなって、今の乱闘形式に変わりましたからね。まぁ、概念というのは想起されてなんぼですから、古いヤツらほど必死になるんでしょう。ボクにはよくわかんないですけど」 「うーん、さすがロキさん、サラッと煽ってきます! 実況席にブーイングの雷やら石化光線が飛んでくるのでなるべく差し控えて頂きたい! ……おおっと! そうこうしているうちに、第1ステージに辿り着くまでで相当な選手が脱落した模様! どうも、お互いの進路妨害に躍起になって、血に頭が上ってしまったようであります」 「本末転倒ですねぇ」 「コースアウトしたのは……いやちょっと数えきれないですね、これ。全体の2/3は失格したようです。救護班が舞い降りて、あたり一面純白の羽が降り注いでおります。  おや? その中に意外にもゼウス選手の姿が見えます! 名実ともに《S.A.S.H.U.K.E.》優勝候補であるゼウス選手、まさかの第一ステージ到着前に脱落~~~?! しかし本人は至って満足そうな笑顔で、救護班の治療を受けています」 「あー、あれ、今回救護班に回ってるトヨクモノ狙いッスね。ゼウス最近女神だけじゃ飽き足らず、無性萌えに目覚めたらしいんで。  トヨクモノはあんまりこういう場には出てこないけど、今季アマテラスさんが全世界線太陽神連合の幹事になった関係でこっちに参加できなくて、代理頼まれたそうです。しかし、しょっぱなでゼウス・ザ・エロ主神に目を付けられるとは、いやぁ災難ですねぇ」 「さすがロキさん、コレクティブ・アンコンシエンス界隈きっての事情通! おっと、ゼウス選手の所業を感知して、ヘーラー、テミス、メーティス選手らが引き返してきた~~~!!!!! 救護現場は一転修羅場の様相を呈してきました! これは審判団にお任せするとして、侵攻する選手たちに目を戻しましょう!  第一ステージは6つのチェックポイントから構成されています! 斥力ステップス、プレートボーン、土星スライダー、ローリングリビドー、タイタンタックル、20連磔壁! 先頭集団が斥力ステップスになだれ込んだ~~~~!!!!」 「うまくやらないと、両脇からくる斥力でペシャンコですからね。あー、結構ひっかかっちゃってるな」 「猪突猛進な選手はここであえなくリタイア! 振るい落とされるのを待ってから、慎重な後続組がトライします! ……よし、…………よし、…………よし、抜けた~~~~~~! 第一ステージのファーストチェックポイント、今大会初めての通過者はアフリカよりの使者・オニャンコポン選手だ~~~!!!」 「やっぱこういうの、天空系は強いですね~。でもその分、次がキツいかなぁ」 「オニャンコポン選手、すかさず第2チェックポイントへ! プレートボーン……地面から次々と大陸プレートが無秩序に突き出してきます! おおっと、オニャンコポン選手、足が止まったぁ! やたらめったらに生えてくる大地に、秩序をもたらそうとしております!」 「真面目なんですよねぇ、彼。ルール創りは最初が肝心って、《Bar創世》で語ってました。酒入ってもブレないんですよ」 「なんとも好感が持てますが、オニャンコポン選手がもたらした秩序の大地の上を、後から来た選手がドンドン通過していくゥ~!! 骨折り損のくたびれ儲け~~~~!!!!」 「おっ、ジョブズ来てますね。やっぱ判断に迷いがない。神話になっても黒のタートルネックかぁ、徹底してるなぁ」 「解説のロキさんも注目のジョブズ選手、今大会最年少概念です! 平らかな大地を一直線にぬけて、第3チェックポイント・土星スライダーに突入~~~!!!! ……あ」 「あ」 「……ジョブズ選手……なんと、土星の輪に魅了された~~~~~~?!!! アゴに手を当てて考え込んでいるゥ~~~~~~????」 「下りちゃいましたね、インスピレーション……あーあ、あれ、今度はネットワークそのものを進化させようって考えてますね」 「まだ生身を失って間もないことが災いしたか、ジョブズ選手、まだパーコンのクセが抜けてない様子だ~~~!!!!」 「まぁ、彼の信者はまだ多数現存していますからね。ここで無理して勝たなくても、託宣飛ばせば一発ですし。個人的には、もう少し進んでほしかったですけどね~」 「ジョブズ選手、テコでも動かない! その脇をアステカ神話のシロネン選手、マヤ神話のイシュタム選手が追い抜いて、土星の輪を華麗に滑り降りていく~~~~!!!!!」 「あーあー、シロネン、粒々だから土星リングとは相性悪いはずなんですが……でも、ちょっと今季熱すぎるし食糧問題も深刻化してるってことで、自分が勝たなきゃって使命感が強いんでしょうね。若い子にトウモロコシたくさん食べさせてあげたいって、うちのフレイともよく話してます。  対してイシュタム……流れに乗ってますねぇ。『なんで頑張ってまで生きなきゃいけないんだ……間違っている……死にたいから死ぬ……死後安らかに暮らす……それでいいじゃないか……』って、今朝もGwitterで呟いてました。いつものかまってちゃんグイかと思ってたけど、エグめにガチだったんだなぁ」 「好対照の二人が、競って第4チェックポイントに到達!! ローリングリビドーでは、自らの欲動が深いほど回転させられる特殊な足場が待ち受けている~~~~!!!!!」 「あー、イシュタム、キツそうですね。ドリルかってくらい回っちゃってる。シロネンはほどほどですが……うーん、後ろが迫ってきてるからなぁ」 「土星の輪から駆け下りて、おおっと、今度は死神・悪魔勢が押しかけてきました! 中国神話の北斗星君、キリスト教・サタン、スラヴからチェルノボグ!!!」 「最近、パーコン界隈じゃあキラキラブームですからねぇ。やってられんってことで今回スクラム組んだって噂がありましたが、本当だったんだなぁ。誰か一人でも勝ったら死ね死ねブームに反転させられますからね」 「ロキさん、この3選手が組んだら、ちょっと他の選手はたまったもんじゃないのでは?」 「いやー、仰る通りで。あー、ギュンギュンに回ってる……けど、ホラ、チェルノボグが犠牲になって、北斗とサタンをコマの要領で弾き出しました。相当、キラキラブームにムカTKみたいですね」 「北斗星君選手はコースアウトで失格~~~!!! しかし、両雄の無念を抱き、サタンが第5チェックポイントへ向かった~~~~!!!! タイタンタックル、巨人の群れがタックルを容赦なく仕掛けてくる~~~~~~~!!!!!」 「でもサタンにはサービス問題でしょ、これ。あいつ常日頃から『負けた猿どもを予が拾ってやった』とかなんとかって、巨人ども手下扱いにしてるし……うーん、どうもこのまますんなり通っちゃいそうですね」 「となると、サタン選手、この勢いで第一ステージ最終までラクラク突破となりますかね?」 「…………(ピッポッパッ プルルルッ プルルルッ)あー、もしもし?」 「ロキさん? あの、解説中の念話は何卒ご遠慮願いたいのですが」 「《ラグナロクを忘れるな》――(プツッ) あ、もう終わりました」 「ううん、2回目はナシで頼みますね! それはそうと、サタン選手はこのまま軽々とタイタンタックルを通過して……、え?」 「ククッ」 「巨人の群れが一丸となって、サタン選手に殺到~~~~!!! 雷を招来して応戦するも、数で攻める巨人に効果はいま一つだ~~~~~!!!!!!!! 《妨げるもの》サタンの道を、巨人たちが妨げるゥ!!!!!! 先ほどまで恭順に道を案内せんばかりの態度だったのに、いったいどういう心境の変化が?!」 「さぁ、巨人族の誇りでも思い出したんじゃないですか?」 「……ロキさん、鼻くそほじりながら関係なさそうに仰いますけど、さきほどの念話で暗示をかけましたね?」 「なんのことやら」 「解説席からの! 介入は!!! 固くご遠慮願いたく!!!!!」 「だーいじょうぶですよ、ボクはプロメテウスと違って謙虚なんで、選手に代わって勝とうなんて思ってませんし。あくまで視聴者の皆様に歓びを提供するために、こう、ちょっとアレンジ入れさせて頂くだけで」 「これ儀式なんですよ、一応!!! 来季の世界の運命がかかってるんですよ!!!!!」 「はいはいわかりました~~~」 「クッ……、絶対わかっていないので、早く誰か! 誰かゴールしてください!」 「お、FULL/DIRTYさんの願いを聞き届けたように誰か躍り出ましたよ?」 「メソポタミア神話のティアマト! エジプト神話のアヌビス! 朝鮮神話のテビョルワン! 誰でもいい! とにかく第一ステージをクリアしてください!!! 第二ステージまでの間に解説を交代させます!!!!」 「まぁ、それはやぶさかではないですが? しかし、第一ステージの最終チェックポイントですからねぇ?? そうすんなりいきますかねぇ???」 「ドヤ顔がウザいですが……その通り! 最終チェックポイントは、20連磔壁! 捕まれば即死の自律捕縛呪怨壁が、20連発で襲い掛かるゥ!!!」 「うーん、これ、対象が強ければ強いほど呪怨も深くなりますからねぇ」 「くっそぉ、ティアマト選手が捕まりました! 磔にされ……消滅~~~~!!!!!!!!」 「いやー、原初神クラスでよかったですよね。復活までそんな時間かかりませんから。でもやっぱキツそうだな~……アヌビスは、あ、5連目で……テビョルワンはー……あー、10連目でアウトかぁ~」 「後続は途切れない! 颯爽と飛び出したのは……おや、自称第六天魔王・ノブナガ選手です!! どういうわけか、他の選手より壁の吸引力が弱いようだが~~?!」 「最近、史実が再考されて神話としては弱化してるみたいですね。なんか言うほど非情じゃなかった、って流れになってきているので……本人としても、挽回したい一心じゃないですかねぇ」 「ノブナガ! 頼む! ここだ! ここが、自称が公称に切り替わる、歴史の潮目だぞ! 第六天魔王、『S.A.S.H.U.K.E.』第一ステージ最終第六チェックポイントを突き進む~~~!!! 7……9……11……いいぞっ、……15……17……磔を目論む不埒千万な呪怨どもを焼き討ちだァ~~~~~!!!!」 「あー、これ、行くかな」ピッピッ 「ついに19連目を突破! さぁ、ゴールは目ぜ、」 「「「「シヴァアアアアアアアアアアアアアアどこじゃあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」 <ドォーーンッ ドォーンッ <パララッ……ドドドドドド 「な、な、な、なんということだ~~~~!!!!! シヴァ選手を探したパールヴァティー選手……いえ、カーリー選手が、怒り心頭で巨大化~~~~??!!!!??!! 《S.A.S.H.U.K.E.》第一ステージが……い、いや、この後の舞台となる第二ステージ、ファイナルステージまでもが、カーリー選手の極大サイズになった足の裏にことごとく踏みつぶされていく~~~~~~!!!!!!!!!」 「ワー、コレハタイヘンダー」 「ロキさん?!! またなんかしてくれましたね??!!!?!」 「いや、ボクは《あ、あそこにシヴァ》って言っただけで」 「十分以上なやらかし!! どうしてくれるんですか、もはや儀式続行が不可能なほどの混沌が生まれちゃったじゃないですか!!」 「混沌! 結構じゃないですか。そもそも世界の潮流として定められるのがこんなチンケな競技儀式で勝利した概念ただ一つだなんて、ケチ臭いことこの上ないですよ。パーコンの閉塞感もこれで閉じられたしょうし……みなもっと、狡知を絞って「・」の外に拓かれる無限の昏迷に相対することでしょう。いやぁ、なんともゾクゾクしますね?」 「言うてる場合ですか!!! ……アッ!!!! に、に、逃げやがった……!!!!!」 『FULL/DIRTYさーん!』 「あっ、中継のナルキッソスさん!?」 『大変です、脱落した選手がカーリーの地団太で出来た次元の割れ目へ堕ちたり、今大会に出場できなかった概念がチャンスとばかりに雪崩れこんできたり、な、な、なにより、僕の……僕の……美しい頬に、かすり傷が!!!!!!!!!!!!!!!!!!』 「……」 『早く事態の収拾をしろと運営から勅令がでました! 僕はケガの手当てのため離脱しますので、あとよろです!!!』<パヒュンッ 「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………どいつもこいつもよォッ!!!!!!!!」 <ドォーーン ドォーン ドォーン <キャーーッ パッパパラリラ <シヴァアアアアアアアアアアアアアアアアア 「……えー、視聴者の皆様、今回の不測の事態に際しまして……運営に代わり、実況のFULL/DIRTYが謹んでお詫び申し上げます。第1,537,564回の《S.A.S.H.U.K.E.――Since Atom-age Series, Hereafter Universe's Karma Enactment》はこれにて閉幕となりました。  次回1,537,565回開催まで皆様の世界を司る運命は……いやはや、正解がなくなりました次第です。この不祥事に関する会見は後日執り行うものとしますが、この乱世を、どうかどなたさまもご自愛の上お過ごしください。それではごきげんよう!」
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