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つまりは現人神ではないか。仏と神は違うだろうが、俺にとっては似たようなものだ。花帯さんには悪いけれど、どうしても胡散臭さを感じてしまう。此処は新興宗教の本拠地なのでは……?
花帯さんは俺の疑惑を察したのか、しかしそれでも気を悪くした様子はなく、なおも丁寧な口調で続けた。
「大乗仏教の云う〈悉有仏性〉そして〈悉皆成仏〉というものですよ。人は皆、本来的に仏様としての本性を持っており、真理に目覚めて悟りを開ければ仏様になれるのです。もちろん、そこに至るのは生半可な道程ではなく、私などはまだまだですが」
そう聞かされてみると、少しは分かったような気になった。聞きかじりの知識でしかないけれど、大乗仏教は多仏思想なのだ。それでも此処に生き仏がいますなんて話、いくら花帯さんがちゃんとした人に見えても、そう簡単に鵜呑みにはできないが……。
と、そこで引き戸が開き、小水を済ませたらしい泡月ちゃんが顔を覗かせた。彼女は俺の顔をまじまじと見ながら部屋に這入る。
「泡月、戸を閉めなさい」
「あっ、うん」
年齢のことを考慮しても、泡月ちゃんは少々間が抜けているみたいだ。動作も花帯さんと比べるとややぎこちない。此処に来て日が浅いのかも知れない。
「花帯様、この人、本当にただのお客様なの?」
「泡月、その云い方は失礼ですよ」
「いえ、俺のことはそんなに気遣わないで大丈夫ですから……」
いちいち注意を受ける泡月ちゃんが不憫に思われたのもあって、俺は彼女を庇うかたちとなった。
「えーっと、じゃあ貴方のお名前はなんて云うの?」
泡月ちゃんは俺の右斜め前……花帯さんの向かいに正座し、くりくりとした目を俺に向けた。俺が御津川紅郎と答えると、小声で二度ほど反復した。それからまたなにか云おうとしたが、花帯さんが「泡月」と遮った。
「貴女はもう寝なさい」
「でも……」
「でもじゃありません。……紅郎様も、今晩はもうお休みになった方が良いですよね。お疲れでしょう?」
「ああ、はい、すみません……そうさせてもらえると有難いです」
正直、握り飯を食べた後から眠気に襲われていた。
「空いている部屋がありますので、ご案内します。……泡月は自分の部屋に戻りなさい」
「うん……分かった……」
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