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 疲労もさることながら、全身に鈍い痛みがある。斜面を転げ落ちただけでなく、木の幹や伸びきった草やぬかるんだ地面に足を取られて何度も転んだのだ。さらに、泥にまみれたかと思えば豪雨に洗い流されるという繰り返しに遭い、芯まで冷えきってしまっている。頭痛も酷く、空腹のせいもあってか、意識まで朦朧(もうろう)とする始末だ。  終わりは近い……。  そのとき、また雷が瞬いた。  ――俺は自分の目を疑った。  が、すかさず視界は闇に覆われ、遅れてやって来た雷鳴に身体が腹の底まで震わされる。  今のは……。  俺は立ち止まり、目を見開いたまま、次の雷光を待った。間もなく、その天地を繋ぐ(まばゆ)い閃光は再び辺りを照らした。刹那の間に、俺は視線を正面からその上方へと素早く動かした。  見間違いではなかった。目の前に、唐突に石の階段が現れたのだ。そしてそれを登った先には、寺院なんかで見かける四脚門のようなものがあった。  思わず、周囲をきょろきょろと見回す。整備された道なんて見当たらない。この階段はどういうわけか、こんな山の中にぽつんと孤立しているのだ。  奇妙……。もしかして、幻か? だがその一段目に、俺の足は確かに乗った。次いで二段目、三段目と上っていく。幻ではない……。  現実味というものが置いてけぼりを食らっている感覚。つい先程まで、これ以上ないくらい現実的な死という結末に向かっていたのに。  とうとう俺は階段を上りきっていた。不思議、あまりにも不思議……そう内心では戸惑いつつも、門の扉を押す。身体が勝手に動く……そこに俺だけでなく、他の何者かの意志が介在しているかのよう……。扉は重いが、開けられなくはなかった。通れるだけの隙間を開けると、俺は門をくぐった。導かれるように。  暗闇に包まれ、シルエットが辛うじて分かるだけだが、前方にあるのはどうやら瓦葺きの日本家屋らしい。玄関が見えている。どのくらいの大きさなのかは分からない。俺が今いる前庭は周りを石垣に囲まれており、それは玄関の両脇から始まってそれぞれ門まで続いている。よって屋敷の幅を見ることができず、両脇に回るのも封じられているのだ。ただ玄関が見られるのみで、どこかの部屋に明かりが点いているかどうかさえ分からない。
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