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「あの、俺、家出してきたのはいいんですけれど、無計画で」
「……知ってます」
先ほどのお話を聞く限り、無計画なのは一目瞭然だ。
心の中でそう呟いて、私は彼の言葉の続きを待つ。
「だから、出来れば働きたいと、思っているんです」
じぃっと彼が私の目をまっすぐに見つめてくる。……心臓が、また跳ねた。
「俺、王都では騎士として働いていたので、護衛とか、そういう仕事が……」
「……欲しいのですか?」
きょとんとして私がそう言葉を返せば、アシュリーさんは頷いた。……っていうか、初対面の人に仕事を紹介してもらおうって、図々しいわね。
(いや、今更か……)
もしかしたら、私が食事をご馳走したから親切な人だと思われたのかも……と、それが全てみたいだわ。
「いや、無理だったら全然いいんです。職業斡旋所の場所だけ、教えてもらえたら……と」
彼が手をぶんぶんと振って、そう続ける。
その姿を見て、私はなんだか彼を放っておけないと思ってしまった。……元々、世話好きの血が騒ぐのだろうな。
(そういえば、旦那様が新しい護衛を探していたような……)
つい先日、リスター伯爵邸の護衛の一人が、辞めた。とはいっても、彼の父が腰を悪くしたらしく、田舎に帰るということだった。
つまり、職場環境が悪いわけじゃないのよね。……そもそも、あそこ以上に働きやすい職場を私は知らないし。
「……私の仕えている旦那様が、護衛を探していたのですが」
「……はい」
「もしよかったら、紹介しましょうか?」
身元もはっきりとしているし、悪い人じゃなさそうだし。
それに、雇うか雇わないかを決めるのはあくまでも旦那様。私は、紹介するだけだ。
「あ、お願いします!」
アシュリーさんは、私の言葉にすぐに頷いた。
「貧乏生活、もう本当にこりごりなので!」
……この数日の空腹が、どうやら彼には相当効いているようだった。まぁ、私には関係ないけれど。
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