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「だから、気にしないでください。……私も、あなたのために駆けまわれてよかった」
ぎゅっとコップを握って、そう告げる。すると、私たちの足元に猫がやってきた。白い毛は少しくすんでおり、野良猫だろうな。
「にゃぁっ」
猫が、男性を見つめる。その視線はサンドイッチに注がれており、猫もお腹が空いているのだろう。
「……首輪は、していないようですね」
「えぇ、そうですね」
「ってことは、野良猫か」
そう言葉を零した男性が、サンドイッチを少しだけ千切って、猫にやる。猫は美味しそうに食べていた。
「ははっ、可愛い」
……私に向けられた言葉じゃない。
わかっているのに、どうしてかその言葉が私の胸に突き刺さる。……ノーマンも、よく私のことを可愛いって……。
「っつ」
どうしてか、涙が頬を伝った。今更だ。今更だとわかっているのに……涙が、止まらない。
「え、えぇっと……」
彼が狼狽えているのがわかる。なので、私は必死に涙を拭う。なんとかして笑おうとするのに、上手く笑みが作れない。
「ごめんな、さいっ……。ちょっと、いろいろ、ありまして……」
必死に涙を拭っていると、男性がなにかを唱える。……彼の手元には、きれいな布があった。
「目を、手でこすらないほうがいいですよ。……あの、その、なんていうか……」
「……はい」
それくらい、わかっている。わかっていても、ついついしてしまうのだ。
……今思えば、彼みたいに魔法で布を取り出せばよかったのに。そこまで、頭が回っていなかった。
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