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彼の手から布を受け取って、涙を拭う。……化粧が落ちているような気がする。でも、そんなこともうどうでもいい。
……私のことを好きだとか可愛いとか言ってくれたノーマンは、もういない。
「そ、その、俺でよかったら、話、聞きます、から……」
彼の声は震えていた。もしかしたら、彼は女性の扱いに慣れていないのかもしれない。
まぁ、突然泣き出した女性の扱いなんて、知っているほうが少ないだろう。
「あと、俺、アシュリーって言います。アシュリー・エインズワース」
一応とばかりに彼が名乗る。……あぁ、自己紹介もまだだった。
「私は、ロザリアです」
「……ロザリアさん」
「はい」
ノーマンよりも少し低い声が、私の名前を呼ぶ。わざわざ私のことをさん付けしているということは、彼は丁寧な人なのだろうな。
「アシュリー、さまは」
私の口が自然と彼の名前を呼んだ。
彼が、ゆるゆると首を横に振ったのがわかった。
「様なんてつけないでください」
「で、ですが……」
エインズワースとは、貴族の家系だ。しかも、ルシエンテス子爵家よりも上の伯爵家だったと記憶している。
……あれ、でも。
「お、お貴族様、ですか……?」
今更ながらにそれに気が付いて、私はアシュリーさま……さんを、見つめた。彼は、気まずそうに視線を逸らした。
しかし、お貴族様が空腹で倒れていたの!?
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