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「ロザリアは僕よりも仕事が大切なんだろう? だったら、仕事と結婚したらいいじゃないか」
久々に恋人に会える。そう思って、必死におしゃれしてお休みを取って。
普段は王都に住んでいる恋人を迎えに行ったとき。開口一番に彼はそう言った。
(……え?)
私たちの間を冷たい風が吹き抜ける。彼の真っ赤な目を見つめると、彼は気まずそうに視線を逸らした。
「……え、えぇっと、どういう、こと……?」
行き場のない手が、宙を彷徨う。唇の端を引きつらせながら、私は恋人である彼――ノーマン・スティールに手を伸ばした。
「言葉通りの意味だよ。ロザリアは僕のことよりも、仕事が大切なんだろう?」
「そ、そんなことない……わ。私にとって仕事が大切なのは認めるけれど、ノーマンのことも大切よ!」
実際、その通りだ。あまり裕福ではないノーマンの生家スティール子爵家にお金を入れるためにも、私は必死に働いていた。
確かにここ最近は私が辺境勤めになったこともあり、連絡は途絶え気味。会うことも滅多になくなっていたけれど……。
(でも、ノーマンだって応援してくれたじゃない……!)
私が辺境に行くことに不安を抱いていたとき。ノーマンは「ロザリアのことを応援するよ」と言ってくれた。その言葉は、嘘だったのだろうか?
「そんな言葉はいらないよ。……今日は、それを伝えたかっただけなんだ」
「ちょ、ちょっと待って……!」
「僕たちはもう終わりだよ。……じゃあね、ロザリア」
ノーマンがそう言って、降りてきた馬車にまた乗り込む。彼が御者に合図を出せば、馬車はまた颯爽と来た道を走り去っていった。
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