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そう思いつつ、私は街の中央へと足を進める。
先ほどまでいたのは街の外れであり、人通りもまばらだった。そのおかげで野次馬とかはできなかったけれど。
(……ノーマンのバカ)
彼のために必死に働いてきたのに、それを無下にするなんて。
……そんな風に思うけれど、これは一種の私の自分勝手だったのかもしれない。
彼のために頑張ろうと思った。もしかしたら、それが彼にとってありがた迷惑であり、プレッシャーになっていたのかな。
その可能性に今更ながらに気が付いて、私は時間が戻らないかと願う。……無理だけれど。
(しばらく、恋人とかもいいかも……)
失恋の傷は新しい恋で癒せ。私の友人ならばそう力説してくるだろうけれど、生憎そんな前向きに生きられない。
自分ではポジティブな方だと思っていたけれど、どうやら私は違うらしい。……虚しい。
(本当に、時間が戻ればいいのにな……)
何度も無理な願いを心の中で唱えながら、私は前を向く。……すると、目の前から一人の男性が歩いてきた。
普通の男性ならば、特に気にも留めないだろう。けれど、彼には気に留める必要がありそうな様子だったのだ。
「なんていうか、ふらふらされている……」
もしかして、体調が悪いのだろうか?
見たところ身なりは悪くないし、お金に困っている様子もない。でも、顔色は悪いしふらふらとおぼつかない足取りで歩いているし。
ただの飲みすぎとかそういうことだったらいいのだけれど、そんな様子でもない。
男性が私の隣を通り抜ける。……お酒の匂いは、しない。
「……あのっ!」
もしも、私が声をかけなかった所為でこの男性が倒れてしまったら……と思うと、寝覚めが悪すぎる。
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