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その一心で私が振り返って男性を見つめると、男性はふらりと倒れてしまった。……え? ちょっと待ってよ!
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて男性の方に駆けより、彼の呼吸を確認する。……よかった、生きてる。
「どこか調子が悪いのですか? 診療所まで、行けますか?」
ゆっくりとはっきりとそう問いかける。そうすれば、男性はゆるゆると首を横に振っていた。
……歩けないっていうこと?
(とりあえず、身体強化の魔法を私自身にかけて、運ぶのが良いかな……)
身体強化の魔法はあんまり褒められたことじゃないけれど、この際背に腹はかえられない。よし、運ぼう。
「大丈夫ですから。……診療所まで……」
ひとまず安心させるように、男性の手に自分の手を重ねる。すると、彼がゆっくりと顔を上げた。
真っ青な目と、漆黒色の髪。顔立ちは精悍であり、騎士っぽい風貌だ。……いや、実際騎士なのかな。
「……その、悪いんですけれど」
「……はい」
男性が申し訳なさそうな目で私を見つめ、口を開く。
そんな申し訳なさそうな顔、しないでほしい。そう思って私は安心させるように笑う。
「大丈夫です。……私、こう見えてたくましいので」
失恋したばかりで傷ついた女のセリフだとは思えない。そうは思っても、今はこの男性の命が大切だ。
「い、え」
しかし、男性は私の言葉を聞いて首を横に振った。……一体、どういうこと?
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